家に眠ったまま、使わなくなったスマホやパソコンを放置していませんか?私たちの身の回りにある電子機器には、金や銀、レアメタルといった貴重な資源が大量に眠っています。この資源の集積を鉱山に見立てて、「都市鉱山」と呼ぶのをご存じでしょうか。実際、東京オリンピック・パラリンピックのメダル約5,000個は、全国から集められた使用済みの小型家電から作られました。その一方で、世界では電子機器の廃棄物が加速度的に増え続け、正しくリサイクルされているのはわずか2割程度にとどまっています。
この記事では、都市鉱山とは何か、なぜ活かされないのか、世界と日本の最新データから見ていきます。
【この記事でわかること】
- ・都市鉱山の意味と、東京五輪メダルが作られた仕組み
- ・世界と日本の電子廃棄物、今どうなっているか
- ・電子廃棄物が引き起こす環境・健康への影響
- ・都市鉱山が活かされない理由と、国際的な枠組み・日本の制度
第1章 都市鉱山とは?
都市鉱山とは、家庭や企業に眠る使用済みの携帯電話やパソコンなどの電子廃棄物(電子ゴミ)中に含まれる金・銀・レアメタルといった金属資源を、天然の鉱山に見立てた言葉です。この言葉は1988年、東北大学選鉱製錬研究所の南条道夫教授の論文で使われたのが最初とされています(※1)。
この考え方を象徴する出来事が、2017年から行われた「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、大会で使用する金・銀・銅メダル約5,000個を、全国から集めた使用済み携帯電話・パソコンなどの小型家電から製作しました(※2)。ごみとして捨てられていたはずのスマホが、世界中のアスリートの胸を彩る栄光の証へと生まれ変わったのです。
※1出典:独立行政法人 物質・材料研究機構「NIMS NOW」2008年5月号
※2出典:環境省「中央合同庁舎5号館における小型家電回収ボックスの設置について~みんなのメダルプロジェクト~」
第2章 世界と日本の電子廃棄物、今どうなっている?
都市鉱山という考え方が実際にどれほどの規模を持っているのか、世界と日本それぞれの最新データから見ていきましょう。
2-1 世界の発生量とリサイクル率の実態
国連の関連機関であるUNITAR(国連訓練調査研究所)とITU(国際電気通信連合)が発表した最新の報告書『Global E-waste Monitor 2024』によると、2022年に世界で発生した電子廃棄物は6,200万トンにのぼり、2010年と比べて82%も増加しています。しかし、正式に回収・リサイクルされたと記録されたのは、6,200万トンのうちわずか22.3%にとどまり、2030年には発生量がさらに8,200万トンまで増えると見込まれています(※1)。
失われている資源の価値も見過ごせません。2022年に発生した電子廃棄物に含まれる金属の価値は総額910億ドルにのぼると試算されており、そのうち銅だけでも190億ドル、金は150億ドル相当が含まれていました。
2-2 日本の都市鉱山事情
日本の都市鉱山は、世界的に見て決して小さな規模ではありません。2008年に物質・材料研究機構が公表した試算では、世界の金属埋蔵量に対して、日本の都市鉱山には金の16%、銀の22%が蓄積されており、金・銀については世界最大級の規模に匹敵するとされています。携帯電話1台あたり約6〜8mgの金が使われており、国内で年間2,100万台が買い替えで不要になると仮定すると、そこに含まれる金は年間150kg分に相当します(※2)。
しかし、実際に回収されるのは660万台(金にすると約50kg)にとどまり、活用されないままになる金は、年間約100kgにのぼると試算されています(※2)。日本には資源が眠っているのに、それを掘り出す仕組みが追いついていないのです。
※1出典:UNITAR「Global e-Waste Monitor 2024」プレスリリース
※2出典:独立行政法人 物質・材料研究機構「NIMS NOW」2008年5月号
第3章 電子廃棄物が引き起こす問題
都市鉱山が活かされないまま放置されると、単に「もったいない」だけでは済まない問題が生じます。環境・健康・資源という3つの観点から、電子廃棄物が引き起こす影響を見ていきます。
3-1 環境への影響
電子廃棄物には、鉛をはじめとする有害物質が含まれていることがあります。正規のルートに乗らず、野焼きなどの非公式な方法で廃棄・リサイクル・保管される際に、こうした有害物質が環境中に放出されることが知られています(※1)。
3-2 健康への影響
こうした非公式なリサイクル活動は、健康にもいくつかの悪影響を及ぼす可能性があります。特に影響を受けやすいのは子どもと妊婦です。国際労働機関(ILO)と世界保健機関(WHO)は、世界中で非公式なリサイクル部門で働く数百万人の女性や児童労働者が、有害な電子廃棄物にさらされる危険にあると推定しています(※1)。
3-3 資源が失われる問題
電子廃棄物の中には、金・銀・銅など本来であれば再利用できる資源が多く含まれています。しかし世界全体で見ると、これらの資源の多くは正規のリサイクルルートに乗らないまま失われており、その価値は年間数百億ドル規模にのぼります(※1)。
実は、この「資源が失われる」課題は、スマホやパソコンだけの話ではありません。太陽光発電も、電気で動く設備である以上、いずれは電子廃棄物と同じ運命をたどります。前の章で紹介した『Global E-waste Monitor 2024』では、 2030年に退役する太陽光パネルの量は、2022年の60万トンから4倍に増え、240万トンにのぼると予測されています。日本でも、2012年のFIT制度開始以降に急速に普及した太陽光パネルの寿命は20〜30年程度とされ、2030年代後半以降、使用済みパネルの排出量が顕著に増加する見込みです。
また環境省の資料では、最終処分場の残余容量を圧迫するおそれがあるとして、年間最大50万トン程度に達すると見込まれており、これを受けて国は、多量の事業用太陽電池を廃棄しようとする事業者に、リサイクルの実施に向けた取り組みを義務付ける新しい法律を制定しました (※2)。太陽光パネルにもアルミニウムやガラス、銅などの資源が使われており、電子廃棄物と同じように、適切に処理すれば資源として活用できます。
※1出典:UNITAR「Global e-Waste Monitor 2024」プレスリリース/公益社団法人日本WHO協会「電子機器廃棄物」(WHOファクトシート日本語版)
※2出典:環境省「太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律の概要」
第4章 なぜ都市鉱山は活かされないのか|3つの原因
『Global E-waste Monitor 2024』では、電子廃棄物の発生量に対してリサイクルが追いつかない理由として、技術の進歩や消費量の増加、修理の選択肢の少なさ、製品寿命の短さ、社会全体の電子化の進展、製品設計上の課題、そして電子廃棄物を管理するインフラの不足が挙げられています(※)。
簡単に言えば、「①次々と新しい機器が登場して買い替えが進む一方で」「②壊れても直しにくく、寿命も短い製品が多く」「③それを適切に回収・処理する仕組みが、増加ペースに追いついていない」という3つの要因が重なっているということです。都市鉱山という概念自体は決して新しいものではありませんが、それを実際に掘り出す仕組みづくりが、世界的な課題になっています。
※出典:UNITAR「Global e-Waste Monitor 2024」プレスリリース
第5章 都市鉱山を活かすためにできること
眠っている都市鉱山を実際に掘り起こすために、国際社会や日本ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。制度の現状から、私たち一人ひとりにできることまで見ていきましょう。
5-1 国際的な枠組み
電子廃棄物をめぐっては、国境を越えた不適正な輸出も問題になっています。2023年時点で81か国が、電子廃棄物の回収・リサイクルを義務づける法律を制定しており、そのうち67か国は、メーカーに対して自社製品の廃棄・リサイクルまで責任を持たせる「拡大生産者責任(EPR)」の考え方を制度に盛り込んでいます。
また、こうした制度は各国のなかだけの制度にとどまりません。国境を越えた不正な輸出を防ぐ「バーゼル条約」のような国際的な枠組みも存在します。しかし、それでも正規のルートを外れた不正な輸出は後を絶たないと報告されています(※1)。
5-2 日本の制度(小型家電リサイクル法)
日本では2013年に「小型家電リサイクル法」が施行され、携帯電話やパソコンなど28品目を対象に、自治体などを通じた回収が進められてきました。しかし、環境省の直近の資料によると、法の基本方針では令和5年度までに年間14万トンの回収を目標としていたのに対し、令和5年度の実績は8.6万トンにとどまっており、目標を達成できていません(※2)。施行から12年が経過してもなお、回収の仕組みが十分に機能しきれていないのが実情です。
5-3 まずは家にあるスマホ・パソコンから
大きな制度の話に感じるかもしれませんが、都市鉱山を活かす第一歩は、家庭にある使われていない小型家電を、きちんと回収ルートに乗せることです。自治体の回収ボックスや、家電量販店・携帯電話ショップの回収など、身近な選択肢はすでにいくつも用意されています。引き出しの中で眠っている端末があれば、それも立派な「未開発の都市鉱山」だといえます。
※1出典:UNITAR「Global e-Waste Monitor 2024」プレスリリース
※2出典:環境省「中央環境審議会循環型社会部会 小型家電リサイクル小委員会(第3回)について」
第6章 よくある質問(FAQ)
Q1. 都市鉱山は昔から言われている話なのに、なぜ今も進んでいないの?
A. 都市鉱山という考え方自体は2008年の調査ですでに大きく注目されていましたが、2025年時点の環境省の資料でも、小型家電の回収量は依然として目標を下回ったままです(※1)。資源としてのポテンシャルの大きさと、実際に回収する仕組みの整備には、長年ギャップが残り続けているのが実情です。
Q2. 都市鉱山の金属って、自分で取り出して売ったりできるの?
A. 理論上は可能ですが、現実的ではありません。電子基板から金などの貴金属を取り出すには、専門的な処理や設備が必要で、個人が安全に行うのは難しいとされています。 実際、貴金属の回収は、非鉄製錬会社が確立した製錬プロセス(電子機器や電子基板を原料として投入し、銅製錬の過程で金・銀などを分離・回収する仕組み)によって担われています(※2)。
家庭でできる現実的な選択肢は、使用済み携帯電話やパソコンをそのまま買取業者や小型家電リサイクルの回収ルートに出すことです。スクラップとして引き渡した後の抽出・精錬は専門業者が担う、というのが実際の資源循環の仕組みになっています。
Q3. 太陽光パネルも都市鉱山になるの?
A. なり得ます。太陽光パネルにはアルミニウムやガラス、銅などの資源が使われており、国も使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務付ける新しい法律を制定しました(※3)。世界的にも、2030年に退役する太陽光パネルの量は2022年の4倍に増えると予測されており、スマホやパソコンと同じように、これから資源循環のあり方が問われる分野です(※4)。
※1出典:独立行政法人 物質・材料研究機構「NIMS NOW」2008年5月号
※2出典:環境省 中央環境審議会資料「日本鉱業協会と非鉄製錬プロセスの紹介」
※3出典:環境省「太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律の概要」
※4出典:UNITAR「Global e-Waste Monitor 2024」プレスリリース
第7章 まとめ
都市鉱山とは、身の回りの電子機器に眠る金属資源を鉱山に見立てた考え方であり、東京五輪のメダルはその象徴的な実例です。世界でも日本でも、電子廃棄物は増え続ける一方で、リサイクルの仕組みがその増加ペースに追いついていないのが現状です。太陽光パネルなど再生可能エネルギー設備も、これから同じ課題に直面していきます。まずは家にある使われていない小型家電を、身近な回収ルートに乗せることから、都市鉱山を活かす一歩が始まります。
