先月より高い、去年より高い——。電気代の請求書を見てそう感じることが、ここ数年で増えていませんか?使う量を特別増やしたわけでもないのに、なぜ上がるのか。その答えは、震災後のエネルギー政策の変化、世界的な燃料価格の急騰、そして脱炭素社会への移行コストが複雑に絡み合っています。この記事では、電気代の仕組みから値上がりの歴史、今後の見通しまでをまとめました。
【この記事でわかること】
- 電気代の内訳(何にお金がかかっているのか)
- 2011年以降に電気代が上がり続けてきた理由
- 再エネ賦課金と脱炭素の関係
- 今後の電気代の見通し
第1章 電気代は何で構成されているの?料金の内訳をざっくり解説
毎月の電気代は、大きく4つの項目で構成されています。
※内訳の数字は目安です。
- 基本料金:契約アンペアに応じた固定費
- 電力量料金:使った電気の量に応じた変動費
- 燃料費調整額:燃料価格の変動を毎月反映する調整額
- 再エネ賦課金:再生可能エネルギーの普及を支える全国一律の負担金
このうち「燃料費調整額」と「再エネ賦課金」の2つが、近年の値上がりに大きく関係しています。使う電気の量を変えていないのに請求額が増えている場合、この2項目が動いている可能性が高いといえます。
第2章 なぜ上がり続けるのか?3つの主な理由
2-1 原発停止で火力発電への依存が高まった
2011年3月に起きた、東日本大震災。その後、安全審査のために国内の原子力発電所が次々と運転を停止し、2013年9月には国内すべての原発が稼働していない状態になりました。
原発が止まると、その分の電力を補う必要があります。代わりに稼働したのが、石炭やLNG(液化天然ガス)を燃やす火力発電です。火力発電の稼働が増えた結果、日本の発電電力量に占める化石燃料への依存度は2010年度の約62%から2013年度には約88%へ急上昇(※)。その結果、電気代が値上がりしました。
では、どうして化石燃料への依存度が高まった結果、電気代が値上がりしたのでしょうか?
原子力発電は、一度燃料(ウラン)を入れれば長期間稼働できるため燃料費の割合が低く、発電コストの多くは設備費が占めています。一方、火力発電は燃料を燃やし続けることで電気をつくります。動かせば動かすほど燃料費がかかるため、原子力より発電コストが高くなります。原発の停止で火力の稼働が増え、その分だけ燃料費が膨らみ、それが電気料金の値上げに直結したというわけです。
2012年から2015年にかけて、大手電力会社で相次いで規制料金の値上げが行われました。また家庭では年間数千円〜1万円程度の負担増、中小企業では使用量によって大きな影響が生じました。
2-2 化石燃料の価格高騰と円安が重なった
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。これをきっかけに、世界的なエネルギー供給の不安定化が起き、燃料価格が急騰。LNG(液化天然ガス)に関しては、日本への輸入単価が2019年度の約6万円/トンから2022年度には約12.6万円/トンへと、約2倍以上に跳ね上がりました。また石炭価格も同期間で数倍に上昇しています(※)。
さらに、円安が追い打ちをかけました。日本は発電に必要な燃料のほぼすべてを輸入に頼っています。円の価値が下がれば、同じ量の燃料を買うためにより多くの円が必要になります。2022年には1ドル130〜150円台まで円安が進み、その結果、燃料輸入コストがさらに膨らんだのです。
2-3 再エネ賦課金が長期的に増加してきた
3つ目の要因は「再エネ賦課金」です。再エネ賦課金とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを普及させるために、電気を使うすべての人が負担している料金です。
2012年にFIT制度(固定価格買取制度)が始まった当初、賦課金は1kWhあたり0.22円でした。しかしその後、年々引き上げられていきました。2026年は1kWhあたり4.18円。2012年と2026年を比べると、賦課金の単価は約19倍に増えています。2026年現在、月400kWhを使う家庭では、賦課金だけで月約1,672円の負担です。
| 年度 | 再エネ賦課金(円/kWh) | 月額負担目安(400kWh) |
|---|---|---|
| 2012年度 | 0.22円 | 約88円 |
| 2020年度 | 2.98円 | 約1,192円 |
| 2024年度 | 3.49円 | 約1,396円 |
| 2025年度 | 3.98円 | 約1,592円 |
| 2026年度 | 4.18円 | 約1,672円 |
※出典:経済産業省プレスリリース各年度
第3章 再エネを増やすと電気代が上がる?
「再エネを増やすために電気代が上がっているのに、再エネって本当にいいものなの?」と感じている方は少なくないと思います。もっともな疑問です。
まず現状として、再エネの買取費用はこれまでに膨大な規模に達しています 。この費用を、電気を使うすべての人で広く分担しているのが再エネ賦課金の仕組みです。
ただ、少し視点を変えると、違う景色が見えてきます。
近年は、太陽光や風力など一部の再エネが、新設電源としては火力発電よりも低コストになるケースが増えています。再エネが国内に普及すれば、日本は海外からの燃料輸入への依存を少しずつ減らせます。2022年のような燃料価格の急騰があっても、自国でつくった電気が増えていれば、その影響を和らげることができるため、今の賦課金には「先行投資」という側面があるのです。
とはいえ、目の前の家計への負担が重いことも事実です。国際エネルギー機関(IEA)は、再エネのコストは長期的には下がっていくと予測しています(※)。今はその過渡期にあたり、移行コストが電気代に上乗せされている状態といえます。
「再エネのせいで電気代が上がった」という見方も、「将来の安定したエネルギーへの移行コストを今払っている」という見方も、どちらも現実の一面を捉えています。どちらか一方が正解というわけではなく、両方の視点を持ったうえで考えることが大切です。
※出典:IEA『World Energy Outlook 2024』
第4章 電気代は今後どうなる?
再エネ賦課金は2026年度もさらに引き上げられており、短期的には上昇傾向が続きそうです。燃料価格については、世界の地政学的な情勢に大きく左右されるため、見通しを立てにくい状況が当面続くとみられています。
一方で、再エネの発電コスト自体は技術の進歩とともに着実に下がっています。太陽光発電のコストは過去10年で大きく低下しており、将来的に再エネが主力電源として定着すれば、賦課金の水準も落ち着いてくる可能性があります。
では、今の高止まりした電気代に対して、私たちにできることはあるのでしょうか。選択肢はいくつかあります。
電力会社や料金プランを見直すのが、もっとも手軽な方法です。自由化によって、消費者は電力会社を自由に選べるようになっています。また省エネ家電への買い替えも、使用電力そのものを減らせるため、直接的なコスト削減につながります。余裕があれば、太陽光発電の導入も選択肢のひとつです。自家消費を増やすことで、電力会社への依存を減らせます。
どれが合っているかは、家庭の事情によってさまざまです。まずは手元の検針票を開いて、「燃料費調整額」と「再エネ賦課金」の欄を確認してみてください。自分が払っている電気代の中身を知ることが、最初の一歩になります。
第5章 よくある質問(FAQ)
Q1. 電気代が上がったのはいつ頃から?
A. 大きな転換点は2011年の東日本大震災です。原発が相次いで停止したことで火力発電への依存が高まり、2012年以降、電力会社は各社が料金の値上げに踏み切りました。その後いったん落ち着いた時期もありましたが、2022年のウクライナ侵攻をきっかけに燃料価格が世界的に急騰し、再び大幅な上昇局面を迎えています。
Q2. 再エネ賦課金はなぜ毎年上がるの?
A. FIT制度のもとでは、電力会社が買い取る再エネの量が増えるほど、その費用を国民全体で分担する再エネ賦課金も増える仕組みになっています。太陽光発電の普及が急速に進んだことによって買取費用がふくらみ、再エネ賦課金の単価も上がり続けてきました。なお再エネ賦課金の単価は、毎年4月に経済産業省が翌年度のものを設定しています。
Q3. 電気代は今後も上がり続ける?
A. 再エネ賦課金については、当面は上昇傾向が続く見込みです。一方、燃料費調整額は燃料価格の動きに連動するため、状況次第では下がることもあります。長期的には再エネのコスト自体が低下していくにつれ、全体的な電気代が落ち着いてくるシナリオも十分考えられます。
Q4. 日本の電気代は世界と比べて高い?
A. 一概には言えません。資源エネルギー庁のデータによると、2022年の燃料価格高騰時にはデンマーク・イタリア・英国など欧州の主要国が日本を上回る上昇率を経験しました。ただし、燃料を自国で賄える国と比べると、日本はほぼ全量を輸入に頼る構造上、恒常的にコストが割高になりやすい面があります。
Q5. 電力自由化で電気代は安くならなかったの?
A. 2016年に家庭向けの電力自由化が始まり、10年が経ちました。結論からいうと、プランを見直した家庭では年間数千円から1万円ほどの節約につながったケースもある一方、電気代全体としては上がり続けています。自由化で競争できるのはあくまで料金の一部であり、燃料費調整額と再エネ賦課金はどの会社を選んでも同じ水準で課されるからです。
Q6. 節電で再エネ賦課金も減らせる?
A. 減らせます。再エネ賦課金は使った電気の量(kWh)に比例して課されるため、使用量を減らせばその分だけ負担も下がります。難しい手続きなしに今すぐできる、もっとも直接的な対策のひとつです。
第6章 まとめ
電気代が上がり続けている背景には、大きく3つの要因があります。原発停止による火力依存の拡大、化石燃料価格の高騰と円安、そして再エネ普及を支える賦課金の増加です。ただ、これらはそれぞれ独立して動いているわけではありません。エネルギー政策・国際情勢・気候変動対策が複雑に絡み合った結果として、今の電気代があります。
「高い」と感じた先で、なぜ高くなっているのかを知ること。そこから初めて、自分たちの暮らしとエネルギーの関係を考える視点が生まれてくるはずです。毎月届く電気代の請求書は、数字の羅列のようで、実は社会が今どこへ向かっているかを映す小さな窓なのかもしれません。
