
グリーンアライアンス・アンバサダー就任から約半年。プロスノーボーダーであり、三児の母でもある田中幸さんを追いかけ、その自然とともにある暮らしをご紹介してきました。
連載第3回となる今回は、一面緑に覆われた長野県佐久市をベースに、登山ガイドとして山と向き合う幸さんの夏に密着、また新たな挑戦となるe-Bikeでのトレーニング風景もあわせてご紹介します。
人によって、意味も見え方も変わる“自然”
冬が終わると、装備は雪山から夏山へ。スノーボードのオフシーズントレーニングとして、15年ほど前から登山を始めた幸さん。結婚後に移住した長野で、地元・八ヶ岳でトレーニングを重ねるうちに、その魅力に本格的にはまったそうです。2021年に「長野県認定登山ガイド 信州登山案内人」の資格を取得、自らもガイドの道を歩み始めました。
登山ガイドとしての幸さんのメインフィールド・八ヶ岳は、南北約25kmにわたって連なる山岳地帯。火山活動や浸食の違いによって生まれた30を超える峰が、それぞれ異なる表情を見せる変化に富んだ山域です。
スノーボードでも、大会などでの勝ち負けにこだわるのでなく、自然そのものを楽しむスタイルに年々変化してきたという幸さんですが、山歩きも同様。多様な山の風景を心に刻みながら歩くのが心地よいといいます。そしてツアー参加者にもそれを伝えたいとも。
「山では、変わりやすい天候を見極める判断力や、それに応じた道具の準備が欠かせません。ツアーに参加される方々も、それぞれ異なる経験や山に対する考え方を持っていて、私にとって当たり前のことが通じないと感じる場面もあります。でも、そうした違いがあるからこそ、お互いに気づきや学びが生まれ、山に対する心構えのようなものが育まれていくのだと思います。だからまずは、自然の中を歩いて『綺麗だった』『楽しかった』と感じてもらえれば十分。ピークを目指すだけでなく、一歩一歩、景色を堪能しながら山歩きを好きになってもらえたらうれしいです」
ほんの小さな大自然、苔が教えてくれる森の変化
そんな幸さんが何度もツアーで訪れるお気に入りの場所が、北八ヶ岳・白駒の池周辺です。標高2,115mに位置する白駒の池は、標高2,000mを超える天然湖として国内最大の広さを誇ります。一帯は樹齢数百年の原生林に覆われ、国内に生育する約2,000種のうち約500種類もの苔が生育する貴重な場所としても知られています。2008年には「日本の貴重なコケの森」にも選定されました。
「私は苔を見るのが大好きです。緑のじゅうたんのように地面を覆う姿は、長い年月をかけて育まれてきた森の歴史そのもの。冷涼な気候を好み、根を持たず体全体で水分や養分を吸収して生きることから、“環境のバロメーター”とも呼ばれているんですよ。この白駒の池一帯は、本当に様々な苔が見られる、素晴らしい場所です」
しかし近年は、鹿の食害や倒木、外来植物の増加などの影響で、緑のじゅうたんには穴が開き、森にも少しずつ変化が現れているそうです。都会から訪れる人には豊かな森に見えても、この場所で暮らし日々山に入る人たちは、その小さな変化を肌で感じています。
「山小屋のオーナーさんたちも『森は確実に減っている』という印象を受けているそうです。私自身も、緑が色褪せているというか、森に入った時の生命力のインパクトが弱まっているような気がします。こうしたことを目の当たりにするにつけ、何とかしなければ、という焦りのようなものを覚えますね」
環境の変化を敏感に映し出す苔の様子に着目し、通常なら15分ほどで通り過ぎる道を、時には1時間以上かけて話をしながら歩くこともあります。五感で自然を味わえるのも、幸さんの苔ツアーの醍醐味です。
「毒のある苔はまだ発見されていないんです。まずは触ってもらって、守るべきものの手触りとして、愛着を持ってもらえたら。織物のようなものもあれば、牛や馬の背中のような感触のものもあります。切り株を好む種類、倒木を好む種類など、生える場所も様々です」
足元の小さな命に目を向ける幸さんの感性は、多くのツアー参加者に共感を呼んでいる様子。丁寧なガイドは女性や一人でも参加しやすいといった点も好評で、リピーターも増えています。何より幸さん自身が楽しんで山歩きをし、目の前の自然に対する想いをダイレクトに伝えていることが、山好きのみなさんの心に響くのかもしれません。
山小屋の電気事情――太陽光発電も活用
八ヶ岳周辺には多くの山小屋が点在し、幸さんをはじめ登山者たちにとって欠かせないよりどころとなっています。
比較的アクセスしやすい八ヶ岳エリアでは商用電源が引かれていることが多いですが、日本の山小屋全体では、送電線が届かない環境で独立電源に頼るケースが一般的です。食品保存や給水、通信などに必要な電力は、主に太陽光発電と蓄電池、発電機を組み合わせて確保されています。空気が澄んでいる上に気温が低いため、発電効率が高くなるのは、山岳地ならではの利点。また騒音や燃料輸送を抑えられることも大きなメリットといえます。
グリーンアライアンス号で向かう、新たな目標
さてこの夏、幸さんのオフシーズントレーニングのメニューがひとつ増えました。サイクリングです。
昨秋、グリーンアライアンスがメインスポンサーを務める「野沢温泉自転車祭」のヒルクライム部門に初出場した幸さん。その縁でグリーンアライアンスのアンバサダーに就任し、今年も大会にエントリー。グリーンアライアンスから貸与されたe-Bike「グリーンアライアンス号」で、ヒルクライムに再挑戦します。
ちなみにe-Bikeは、太陽光発電とも連動した”エコフレンドリーなモビリティ“として、グリーンアライアンスが普及促進活動をしている乗り物のひとつ。幸さんも、自宅の太陽光発電システムで作った電気で充電し、トレーニングや日常生活で活用しています。
本番の「野沢温泉自転車祭」までは数か月。「出るからには入賞を目指します!」とアスリート魂をのぞかせる幸さん。佐久市の自宅から気軽に周囲の山へアクセスできる環境を生かし、“サクッ”とヒルクライムを楽しみながら日々トレーニングを重ねています。
練習のスタートは、子どもたちが起き出す前の早朝5時半から。普段は30分ほどで折り返しますが、時間のある日には大会本番とほぼ同じ約13kmを走ります。
山道を登りながら、どこで力を使い、どこで温存するか。自身の脚力と電力を使い分け、最も速く遠くまで走れるバランスを探りながら走ることも、e-Bikeならではの面白さだといいます。
「e-Bikeは、普通の自転車よりも推進力が高く、景色を楽しむ余裕があるのもいいですね。ひと漕ぎでグンと進むのが、とにかく楽しい。気分が乗らない日でも、漕ぎ出せば勝手にスイッチが入る感じ。『まだ行けるよ』と背中を押してくれる感覚があって、一人では無理な場所まで二人で行っているような。自転車がより身近になりました」
もちろん、e-Bikeはハードなトレーニングのためだけのものではありません。買い物や子どもの送り迎えなど、日々の暮らしでも活躍しています。
「今まではどこに行くのも車に乗っていましたが、これからはe-Bikeにサイドバッグを付けて、地元での移動にもどんどん使っていきたいですね。体を動かせますし、環境にもやさしいので、毎日気持ちよく使えそうです」
10月に開催される野沢温泉自転車祭では、「賑やかに楽しみたい」と、多くの方の参加を呼びかけます。
「昨年、自転車競技は未経験でしたが、思い切って参加してみたら、本当にエキサイティングだったんです。飛び込んでみることで見える新しい景色があると思います。最初の一歩は誰でも勇気がいるかもしれませんが、その先には想像以上にたくさんの発見や喜びが待っています。ぜひ挑戦してみてください!」
プロフィール
田中幸(たなか さち)
プロスノーボーダー、自然ガイド、ラジオパーソナリティ
1981年、滋賀県湖南市出身。高校時代からボート競技を始め、銀行に就職後は実業団でも活躍。25歳の時プロスノーボーダーとなり、さまざまな大会に出場。多くのDVD作品の出演やプロデュースを手掛けるほか、ツアーやイベントの企画など、国内外の雪山を拠点に活動。長年雪山に向き合い、オリンピック・スノーボード競技解説者も務めるなど第一線で活動する中で、気候変動による積雪量の変化や自然環境への影響を肌で実感。信州登山案内人(長野県認定ガイド)として自然と共生する暮らしを実践し、ラジオパーソナリティやSNSを通じて環境や地域の未来について発信を続けている。
Instagramアカウント:@sachitanaka

写真:太田孝則、写真提供:田中 幸