2026.07.14 環境問題

2050年は魚よりプラスチックが多くなる?海洋汚染の実態と私たちへの影響

毎年1,900〜2,300万トンものプラスチックが川や海に流れ込み、2050年には海中のプラスチック重量が魚を超えると試算されています。しかも汚染は海面だけでなく、深海2,000mにまで到達していることが確認されています。

この記事では、海洋プラスチック問題の現状・原因・生き物や人体への影響を、政府や研究機関の一次情報をもとにわかりやすく解説します。

1章 海洋プラスチックの現状

海洋プラスチックの現状

海の中には今、どのくらいのプラスチックが漂っているのでしょうか。国連環境計画(UNEP)の報告によると、海洋中に蓄積されたプラスチックの総量はすでに7,500万〜1億9,900万トンと推計されています(※1)。毎年新たに流れ込む量は1,900〜2,300万トン。1分間でトラック1台分以上のプラスチックが川や海に流れ込んでいる計算になるのです。

そもそもプラスチックは、自然の力では分解されません。紫外線や波で砕けて小さくなるだけで、海から消えることはないのです。1950年以降に世界で生産されたプラスチックの累計は83億トンを超えますが(※2)、その多くが今も海や土壌に残り続けているといわれています。

では、日本はどのくらい関与しているのでしょうか。環境省の令和6年度の推計では、日本から海洋に流出するプラスチックごみは年間1万3,000〜3万1,000トンとされています(※3)。廃棄物管理の水準が高い日本でも、これだけの量が海に流れ出ているのです。

※1出典:UNEP「From Pollution to Solution: A Global Assessment of Marine Litter and Plastic Pollution」(2021年)
※2出典:環境省「令和2年版環境・循環型社会・生物多様性白書」
※3出典:環境省「令和6年度検討結果 日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計」

2章 なぜ海にプラスチックが流れ込むのか

海洋プラスチックごみの約8割は、陸地が発生源とされています(※)。街中でのポイ捨てや家庭ごみの不適切な処理、台風・大雨による流出など、さまざまな経路で川に入り込み、最終的に海へ到達します。

2-1 陸上の不適切処理が出発点

プラスチックごみが海に辿り着くルートは、実はとてもシンプルです。道路脇に捨てられたペットボトルが雨水で側溝へ流れ、側溝から河川へ、河川から海へ。強風や洪水があれば、この流れはさらに加速します。

日本語表記のペットボトルが韓国や中国の海岸に漂着するケースも報告されています。ごみは国境を越えて移動するため、自国での処理が不十分であれば、その影響は必ず周辺国にも及ぶのです。

2-2 漁業・船舶由来のごみも見逃せない

残りの約2割は、海上からの流出です。漁網・ロープ・浮きなどの漁業資材や船舶からの廃棄物が、直接海に入り込みます。なかでも漁網は「ゴーストフィッシング」と呼ばれる現象を引き起こします。海中に放置されたまま魚やウミガメを絡め取り続ける、目には見えにくい問題ですが、生態系へのダメージは深刻です。

※出典:環境省「海洋プラスチックごみに関する各種調査ガイドライン等について」

3章 2050年には魚より多くなる?

「2050年には魚よりプラスチックの方が多くなる」──一度は耳にしたことがあるかもしれないこの試算は、環境省の白書にも引用され、世界の政策立案に影響を与えてきたフレーズです(※1)。

これはエレン・マッカーサー財団の研究が元になっています。現在の排出ペースが続いた場合、2050年時点の海洋プラスチック量が魚の重量を上回るという試算です。「数」ではなく「重さ」での比較である点には注意が必要ですが、それでもこの数字の持つインパクトは小さくありません。

さらにUNEPは、対策を講じなければ2040年までに海洋へのプラスチック流入量が現在の約3倍に達すると警告しています(※2)。一方で、今すぐ行動すれば2040年時点の流入を最大80%削減できるとも試算されています。問題は深刻ですが、手遅れではないのです。

※1出典:環境省「令和2年版環境・循環型社会・生物多様性白書」
※2出典:UNEP「From Pollution to Solution: A Global Assessment of Marine Litter and Plastic Pollution」(2021年)

4章 深海2,000mにまで届く汚染の実態

海洋プラスチック汚染というと、海面を漂うごみを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実態は、はるかに深いところまで進んでいます。

4-1 JAMSTECが捉えた深海のビニール袋

国立研究開発法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査では、水深2,000mの深海底にもビニール袋や釣り糸などのプラスチックごみが確認されています(※1)。水圧が高く光も届かないような過酷な環境にまで、プラスチックは確実に届いているのです。

さらに、目に見えないほど微細なマイクロプラスチックは、北太平洋の水深2,000m付近にも大量に蓄積されていることがわかっています。海面をきれいにするだけでは、海底に積み上がったプラスチックには到底手が届きません。

4-2 台風1回で濃度が1,300倍になる理由

同じくJAMSTECの研究で、台風通過後に日本近海のマイクロプラスチック濃度が最大1,300倍に急増することが明らかになっています(※2)。台風が海底をかき混ぜ、堆積していたプラスチック粒子を一気に巻き上げるためです。

台風の多い日本列島にとって、これは他人事ではありません。強風によって陸上のごみが海に流れ込む量も増えるため、台風シーズンのたびに汚染が積み重なっていきます。日本近海のマイクロプラスチック濃度は世界平均の27倍に達しているといわれていますが、その背景にはこうした地理的・気候的な条件の重なりがあるのです。

※1出典:JAMSTEC「JAMSTECが挑む海洋プラスチック問題」
※2出典:JAMSTEC「台風はプラスチックを大量に海に流入させる」プレスリリース(2022年1月13日)

5章 マイクロプラスチックとは何か

海洋プラスチック問題を語るうえで欠かせないキーワードが、マイクロプラスチックです。

マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の微細なプラスチック粒子のことで、大きく2種類に分かれます。洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤として最初から小さく作られた「一次マイクロプラスチック」と、海に流れ込んだプラスチックが紫外線・波・砂との摩擦で砕かれてできた「二次マイクロプラスチック」です。

さらに問題なのは、細分化が止まらないことです。国立環境研究所の研究では、わずか1gのプラスチックから数百万個以上のナノプラスチック粒子が生成される可能性が示されています(※)。ナノプラスチック(直径0.001mm未満)になると、細胞レベルへの侵入も懸念されはじめています。

一度海に流れ出たプラスチックは、砕けて小さくなるだけで消えることはありません。数百年かけて細分化され続けながら、海の中を漂い続けるのです。

※出典:国立環境研究所「ほんの“1g”から数百万個のナノプラスチックに?」国環研View LITE(2025年)

6章 魚を食べても大丈夫?

「マイクロプラスチックが魚の体内にある」と聞くと、食卓への影響が気になるところです。現状と科学的見解を整理します。

6-1 食物連鎖が運ぶリスク

JAMSTECなどの調査では、調査対象の魚類のうち60%以上の種でマイクロプラスチックが体内から検出されているといわれています(※1)。また、700種以上の海洋生物がプラスチックを誤飲していることも確認されています。

その仕組みはシンプルです。まずプランクトンがマイクロプラスチックを取り込み、そのプランクトンを小魚が食べ、小魚を大型魚が食べる。食物連鎖を通じて、マイクロプラスチックはより上位の生き物へと取り込まれていきます。ウミガメの86%、海鳥の44%、海洋哺乳類の43%を含む少なくとも267種への影響が報告されており、すでに生態系全体の問題となっているのです(※2)。

6-2 人体への影響──現時点の科学的見解

では、人間への健康影響はどうでしょうか。現時点での科学的なコンセンサスは「影響の可能性はあるが、まだ解明中」という段階です。

世界保健機関(WHO)は、150マイクロメートルより大きいマイクロプラスチックは人体に吸収されにくいとしながらも、それ以下のサイズについてはさらなる調査が必要と報告しています(※3)。一方、心血管系や呼吸器系への潜在的なリスクを指摘する研究も増えています。

魚の場合、マイクロプラスチックは内臓に多く蓄積するため、内臓を除いた切り身を食べる限り、取り込むリスクは比較的少ないと考えられています。 ただし、プランクトンをまるごと食べる貝類や、内臓ごと食べる小魚については引き続き注意が必要です。「今すぐ危険」とは言えませんが、「問題ない」と断言できる状況でもありません。

※1出典:JAMSTEC「深海にもプラスチックの溜まり場が!」
※2出典:環境省「令和2年版環境・循環型社会・生物多様性白書」
※3出典:WHO「Microplastics in drinking-water」(2019年)

7章 世界と日本の取り組み

7-1 国際プラスチック条約(INC)交渉の現在地

2022年、国連環境総会で「プラスチック汚染を終わらせる」ことを目指す国際条約の策定が決議されました。政府間交渉委員会(INC)が設置され、生産から廃棄まで全ライフサイクルを対象とした、法的拘束力のある条約の締結に向けて交渉が続いています。

石油産業を抱える国と環境重視の国との間には意見の隔たりがあり、交渉は一筋縄ではいきません。それでも「国際的なルールをつくる」という方向性で各国が動き出したこと自体、大きな前進といえます。条約が締結されれば、各国の政策と企業行動の両方に影響を与えることになります。

7-2 日本の法整備と個人でできること

国内では2022年にプラスチック資源循環促進法が施行されました(※)。使い捨てスプーンやフォークなどの特定プラスチック使用製品について、小売業者や飲食店に削減や代替素材への切り替えが求められています。

個人レベルでも、できることはいろいろあります。

カテゴリ 具体的な行動
日用品 マイボトル・マイバッグを日常的に使う
買い物 プラスチック包装の少ない商品を選ぶ
ごみ出し ごみを正しく分別する
地域活動 海岸清掃などの活動に参加する

「自分一人が変えても意味がない」と思いがちですが、一人ひとりの選択が積み重なることで、企業の製品設計も変わっていきます。自分の消費行動が市場に信号を送っているという視点で、できることから始めてみてください。

※出典:環境省「プラスチック資源循環法関連」

8章 海洋汚染に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 海洋プラスチックはどこの国が一番多く出しているのですか?

A. 排出量が多い国はアジアに集中しており、中国・インドネシア・フィリピン・タイ・ベトナムなどが上位に挙がります。廃棄物管理のインフラが整っていない地域からの流出が多いためです。一方、日本は廃棄物管理の水準は高いものの、1人あたりのプラスチック使用量は世界的にも多い部類に入ります。

Q2. マイクロプラスチックは飲料水にも入っているのですか?

A. WHOの調査によると、ペットボトル入りの飲料水や水道水からもマイクロプラスチックが検出されているといわれています(※1)。ただし現時点では、飲料水中の濃度が直ちに健康被害を引き起こすレベルにあるとはされていません。まだ研究が進められている段階です。

Q3. プラスチックは海で分解されないのですか?

A. 自然分解はほぼされません。紫外線や波の力で砕けて小さくなるだけです。種類にもよりますが、ペットボトルが完全に分解されるまで数百年かかるともいわれています。見えなくなっても、なくなったわけではないのです。

Q4. 海洋プラスチック問題は解決できるのですか?

A. UNEPは、今すぐ行動すれば2040年時点での流入量を最大80%削減できると試算しています(※2)。技術的な解決策はすでにあります。課題は、意志・政策・消費行動を同時に動かせるかどうかです。国際条約の交渉が前進していることは、解決への道が着実に開かれていることを示しています。

Q5. 日本の海はどのくらい汚染されているのですか?

A. JAMSTECの調査によると、日本近海のマイクロプラスチック濃度は世界平均の27倍に達しているといわれています(※3)。台風による海底の攪拌や、アジア各国からのごみが海流に乗って集まりやすい地理的条件が影響しています。深海2,000mでもごみが確認されており、表層だけでなく海全体に汚染が広がっているのです。

※1出典:WHO「Microplastics in drinking-water」(2019年)
※2出典:UNEP「From Pollution to Solution」(2021年)
※3出典:JAMSTEC「台風はプラスチックを大量に海に流入させる」プレスリリース(2022年1月13日)

9章 まとめ

海洋プラスチック問題は、海の向こうの話のようで、実は私たちの暮らしと地続きの環境問題です。すでに最大1億9,900万トンの海洋プラスチックが海に漂い、2050年には魚の重量を超えるとも試算されています。日本近海の濃度は世界平均の27倍に達し、魚類の60%以上からマイクロプラスチックが検出されているのです。

それでも、今動けば流入量を大きく減らすことは可能です。国際条約や法整備が進み、私たち一人ひとりが環境にやさしい選択を重ねたとき、確実に海は変わっていくでしょう。

海洋プラスチック問題を含む「世界で起きている環境問題」の全体像については、こちらの記事をご覧ください。

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