夏の夜、日が沈んだのに全然涼しくならない……そんな経験はありませんか?都市部で熱帯夜が増えている背景にあるのが、ヒートアイランド現象です。「地球温暖化と何が違うの?」と思われがちですが、実は原因も範囲も別物です。この記事では、ヒートアイランド現象の基本から、熱帯夜が増えるしくみ、地球温暖化との違い、よくある誤解、国内外の対策事例までまとめて紹介します。
【この記事でわかること】
- ヒートアイランド現象の基本と起きる原因
- 熱帯夜が増えるしくみ
- 地球温暖化との違いとよくある誤解
- 国内外の対策事例と、暮らしでできること
第1章 ヒートアイランド現象とは?
1-1 都市の気温が郊外より高くなる現象
ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が、周辺の郊外に比べて高くなる現象のことです(※1)。
たとえば、同じ日に都市部と郊外で気温を比べると、都市部のほうが高くなっていることがあります。特に、風が弱く晴れた日の夜には、その差が表れやすくなります。
その背景には、都市の地面や建物のつくりがあります。都市では、道路や建物が多く、地面がアスファルトやコンクリートで覆われています。これらは日中に太陽の熱を蓄え、夜になってからも少しずつ熱を放出します。
さらに、エアコンや自動車、工場などから出る「人工排熱」も、都市の気温を押し上げる要因です(※2)。
こうした影響が重なることで、都市部では周辺地域よりも気温が高くなりやすくなるのです。
また、ヒートアイランド現象で特に注目したいのが、夜間の気温です。夜は、日中に建物や道路などが蓄えた熱が放出されるため、都市部では気温が下がりにくくなります。
「夜になってもなかなか涼しくならない」「都市部では熱帯夜が多い」と感じる背景には、こうした夜間の気温の下がりにくさがあります。
では、ヒートアイランド現象とよく一緒に語られる「地球温暖化」とは、何が違うのでしょうか。次に、それぞれの原因や影響する範囲の違いを見ていきましょう。
1-2 地球温暖化との違いは「原因」と「範囲」
「ヒートアイランド現象と地球温暖化は、何が違うの?」と思う人もいるでしょう。どちらも人間の活動と関係していますが、影響する範囲や、気温が上昇する主な原因は異なります(※2)。
| ヒートアイランド現象 | 地球温暖化 | |
|---|---|---|
| 範囲 | 都市とその周辺 | 地球全体 |
| 主な原因 | ビルや道路などの人工物、 エアコンなどの排熱 |
二酸化炭素などの温室効果ガスの増加 |
| 気温への表れ方 | とくに夜の最低気温が上がりやすい | 各地で長期的に気温が上がる |
このように、ヒートアイランド現象は都市化によって局地的に気温が上がる現象であるのに対し、地球温暖化は温室効果ガスの増加などによって、地球全体の平均気温が長期的に上昇する現象です。
ただし、都市部の気温上昇には、地球温暖化とヒートアイランド現象の両方が影響しています。地球温暖化によって上昇した気温に、ヒートアイランド現象による気温上昇が重なることがあるためです(※2)。
実際に、気温の長期的な変化を見ると、その違いがわかります。
気象庁は、全国の観測地点の中から、都市化などによる環境の変化が比較的小さい15地点を選び、それぞれの年平均気温の上昇率を平均した値を、大都市と比較しています。1929〜2025年の年平均気温の上昇率(100年あたり)は、次のとおりです(※3)。
- 都市化の影響が比較的小さい15地点の平均:1.8℃
- 東京:3.5℃
- 名古屋:3.1℃
- 大阪:2.8℃
このように、大都市では、15地点の平均よりも気温の上昇幅が大きくなっています。
さらに、昼と夜では、気温の上昇幅にも違いがあります。
東京では、1929〜2025年の気温の変化を100年あたりに換算すると、1日の最高気温は2.2℃、1日の最低気温は4.6℃上昇しています(※3)。
ここでいう「1日の最高気温」とは、その日に観測された最も高い気温、「1日の最低気温」とは、その日に観測された最も低い気温のことです。一般的には、最高気温は日中、最低気温は夜から明け方に観測されます。
このように、東京では日中よりも夜から明け方の気温のほうが大きく上昇しています。こうした夜間の気温上昇も、ヒートアイランド現象の特徴のひとつです。
地球温暖化は、いま世界で起きている環境問題の中心的なテーマのひとつです。環境問題の全体像を知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
1-3 名前の由来と、等温線が「島」に見える理由
「ヒートアイランド」は、英語で「heat island」、つまり「熱の島」という意味です。
気温の分布を等温線(同じ気温の地点を結んだ線)で地図に描くと、都市部など気温の高い地域が、海に浮かぶ島のような形で現れることがあります。これが「ヒートアイランド」という名前の由来です。
関東地方では、東京都市圏を中心に高温の地域が広がっています。では、なぜ都市では周辺地域よりも気温が高くなりやすいのでしょうか。
次の章では、ヒートアイランド現象が起こる主な原因を3つに分けて見ていきます。
※1出典:気象庁「ヒートアイランド現象の「知識・解説」ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?」
※2出典:気象庁「ヒートアイランド現象の「知識・解説」ヒートアイランド現象と地球温暖化は違うのですか?」
※3出典:気象庁「ヒートアイランド現象|1.1(1)都市化率と平均気温等の長期変化傾向」
第2章 ヒートアイランド現象はなぜ起きる?主な3つの原因
ヒートアイランド現象が起きる主な原因は、次の3つです。
- 地面がアスファルトやコンクリートで覆われること(地表面の人工化)
- エアコンや車などからの人工排熱が増えること
- 高い建物が増えて、風の通り道がふさがれること
ひとつずつ見ていきましょう。
2-1 地面がアスファルトやコンクリートで覆われる(地表面の人工化)
緑地や水田、水面では、水分が蒸発するときに熱が使われます。そのため、地面の熱が空気に伝わりにくくなります。植物も、葉から水分を蒸発させることで日射のエネルギーを逃がし、空気を温めにくくします。
一方、アスファルトやコンクリートには、こうした働きがありません。夏の日中には、表面温度が50〜60℃ほどになり、周囲の空気を温めます。さらに、熱をため込みやすく冷めにくいため、昼に蓄えた熱を夜になっても空気へ放出し続けます。
このように、緑地や水面が減り、道路や建物が増えるほど、地面から空気へ伝わる熱が増えていきます。
2-2 エアコンや車などからの人工排熱が増える
エアコン、自動車、工場、火力発電所、ごみ焼却場など、都市ではさまざまな場所から熱が出ています。電気やガス、石油などを使うと、そのエネルギーは最終的に熱となって大気へ放出されるためです。
都心では、昼間の排熱量が局所的に100W/㎡を超えると見積もられています。これは、真夏に太陽が真南に来たときの日射量の約10%にあたります(※1)。とくに、空冷式のエアコンや自動車から出る熱は、その多くがそのまま空気を温めます。
2-3 高い建物が風の通り道をふさぐ
建物が高く、密集する都市では、風通しが悪くなるだけでなく、夜に地面の熱が逃げにくくなるという問題もあります。
まず、建物が密集すると風が通りにくくなり、地面の近くに熱がこもりやすくなります。
さらに、建物に囲まれることで、空の見える割合(天空率)も低くなります。空が開けていないと、夜に地面の熱が空へ逃げる「放射冷却」が弱まり、気温が下がりにくくなります。環境省の調査例では、天空率は河川沿いの歩道で67.8%だったのに対し、ビルに囲まれた市街地の歩道では28.9%でした(※2)。
このように、地面の人工化、人工排熱の増加、建物の密集が重なることで、都市では昼に熱がたまり、夜になっても冷えにくくなります。これが、ヒートアイランド現象によって都市の気温が周辺地域より高くなる主な理由です。
※1出典:気象庁「ヒートアイランド現象の「知識・解説」ヒートアイランド現象の要因は何ですか?」
※2出典:環境省「ヒートアイランド対策ガイドライン(第1章 ヒートアイランド現象とは)」
第3章 熱帯夜が増えるしくみ
ヒートアイランド現象によって、都市では特に夜の気温が下がりにくくなります。ここでは、なぜ熱帯夜が増えやすくなるのか、そのしくみを見ていきましょう。
3-1 昼に蓄えた熱が、夜になっても放出され続ける
日中、アスファルトやコンクリート、建物の壁などは太陽の熱を吸収します。こうして蓄えられた熱は、日が沈んだあとも少しずつ空気へ放出されます。
都市では、緑地や水面が少なく、アスファルトやコンクリートに覆われた場所が多いため、熱がたまりやすくなります。さらに、建物が密集していると、夜に地面の熱が空へ逃げる「放射冷却」も弱くなります(※1) 。
そのため、日中に上がった気温が夜になっても下がりにくくなります。
3-2 エアコンの排熱が、さらに気温を上げる悪循環
暑い日にエアコンを使うと、室内は涼しくなりますが、室外機からは熱が外へ放出されます。
都市では、多くの建物や住宅でエアコンが使われるため、屋外に放出される熱も増えます。特に気温が高い時間帯には、エアコンの使用量が増えることで、人工排熱がさらに増加します。
つまり、暑いからエアコンを使う、エアコンを使うことで屋外に熱が出る、という循環が生まれるのです。こうした人工排熱も、都市の気温が下がりにくくなる一因です(※2) 。
温度設定や冷房・除湿の違いなど、使い方のコツはこちらで解説しています。
3-3 熱帯夜が増えると暮らしはどう変わる?(睡眠・熱中症リスクなど)
夜間の気温が下がりにくくなると、熱帯夜も起こりやすくなります。
熱帯夜とは、気象庁の定義では「夜間の最低気温が25℃以上となる日」のことです(※3) 。
熱帯夜が続くと、寝苦しくなって睡眠の質が低下するほか、夜間でも暑さによる体への負担が続きます。特に、暑さに体が慣れていない時期や、エアコンを適切に使えない環境では、夜間の熱中症にも注意が必要です(※4、5) 。
このように、ヒートアイランド現象による夜間の気温上昇は、単に「夜も暑い」というだけでなく、私たちの睡眠や健康にも影響します。
※1出典:気象庁「ヒートアイランド現象の「知識・解説」都市化の影響は日中と夜間で違いはあるのですか?」
※2出典:環境省「ヒートアイランド対策ガイドライン(第1章 ヒートアイランド現象とは)」
※3出典:気象庁「ヒートアイランド現象|大都市における熱帯夜日数の長期変化傾向」
※4出典:気象庁「ヒートアイランド現象|1.3 気温の階級別日数の長期変化傾向」
※5出典:総務省消防庁「令和7年9月の熱中症による救急搬送状況」
第4章 ヒートアイランド現象のよくある誤解3つ
ヒートアイランド現象は、猛暑や地球温暖化と混同されやすい現象です。ここでは、とくに多い3つの誤解を整理します。
4-1 「猛暑はぜんぶヒートアイランドのせい」ではない
「都会だから暑い」とよく言われます。たしかに、晴れて風の弱い日は気温が上がりやすく、ヒートアイランド現象も強く出ます。ただ、記録的な暑さの原因がヒートアイランド現象とは限りません。
その例が、2007年8月16日の埼玉県熊谷市です。この日は最高気温40.9℃を記録しましたが、気象庁の解析では、熊谷周辺で都市化によって上がった気温は1℃程度でした。この日は北西から山を越えて風が吹き込み、フェーン現象が起きていたと考えられています。気温を押し上げた影響は、都市化よりもフェーン現象のほうが大きかったことになります(※1)。
猛暑の背景には、地球温暖化やその年の気象条件、ヒートアイランド現象などが重なっています。日本の猛暑や豪雨の現状は、こちらの記事でも解説しています。
4-2 「ヒートアイランド対策をすれば温暖化も止まる」わけではない
ヒートアイランド対策だけで、地球温暖化が止まるわけではありません。2つの現象は、原因も範囲も違うからです。
ただ、両方に効く対策もあります。たとえば、建物の空調の負担を減らしたり、自動車からの排熱を減らしたりする対策は、CO₂の排出削減にも、排熱の削減にもつながります(※2)。
一方で、都市部でのバイオマスの燃焼や分散型の発電は、温暖化対策には役立ちますが、都市部の排熱を増やすことがあります。そのため環境省は、熱の出し方を工夫するなど、ヒートアイランド対策は別に行うのが望ましいとしています。
どちらか一方では足りません。2つの現象を分けて考えながら、両方に取り組むことが大切です。地球温暖化の原因と対策は、こちらの記事でくわしく解説しています。
4-3 「路面温度が下がれば涼しくなる」とは限らない(東京の遮熱性舗装の例)
路面の温度が下がれば、街も涼しくなりそうですが、実際はそう単純ではありません。
「遮熱性舗装」は、太陽光を反射する遮熱材を路面に塗って、温度の上昇を抑える舗装です。東京都は2008年度から本格的に導入しています(※3)。国土交通省が国道246号で行った検証では、晴れた日に一般的な舗装との差が最も開いた時点で、路面温度が平均で約9℃低くなりました(※4) 。
ところが、人が感じる暑さの指標である暑さ指数(WBGT)は、一般的な舗装とほとんど変わりませんでした。さらに横浜市の調査では、日射をよく反射するぶん、日中は歩行者が浴びる熱放射がかえって強まっていました。地面に近い子どもなどでは、暑さが悪化する可能性があるとされています(※5)。
遮熱性舗装が無意味というわけではありません。同じ調査では、日没後(20時まで)に歩行者が受ける熱放射は約4%減っています。 ただ、路面温度は涼しさを測る指標のひとつにすぎません。人が感じる暑さまで下げるには、緑陰などとの組み合わせが欠かせません。
※1出典:気象庁「ヒートアイランド現象の「知識・解説」記録的な最高気温は都市化の影響によるものですか?」
※2出典:環境省「ヒートアイランド対策ガイドライン(第1章 ヒートアイランド現象とは)」
※3出典:東京都「主要事業の進行状況報告書(令和7年3月31日)82 建設局 暑さ対策としての道路舗装」
※4出典:国土交通省「路面温度上昇抑制機能を有する舗装技術の効果確認」(アスリート・観客にやさしい道の検討会 資料3、平成28年7月)
※5出典:横浜市環境科学研究所「市が尾駅前における遮熱性舗装の熱環境調査結果」(横浜市環境科学研究所報 第42号)
第5章 日本のヒートアイランド対策の取り組み事例
ここからは、実際にどんな対策が行われているのかを見ていきましょう。まずは、日本の3つの地域を紹介します。
5-1 東京(遮熱性舗装)
東京都は、都心の重点エリア(センター・コア・エリア)を中心に、路面の温度を抑える舗装を整備しています。道路の補修工事に合わせて進めていて、種類は2つあります。
- 遮熱性舗装:表面に塗った遮熱材が赤外線を反射して、路面の温度上昇を最大8℃ほど抑えます
- 保水性舗装:しみこませた雨水が蒸発するときの気化熱で、路面の温度上昇を最大10℃ほど抑えます。効果を出すには、雨などで水を含ませておく必要があります
2025年度末までに整備した道路は、累計で約203kmです(※1)。ただし、路面が冷えても、体感の暑さが同じように下がるとは限りません。くわしくは4-3をご覧ください。
5-2 大阪(温暖化対策と一体で推進)
大阪府と大阪市は、2014年3月に「大阪府市ヒートアイランド対策基本方針」をつくり、対策を進めてきました。2026年3月には、この方針を改定しています。近年は地球温暖化の影響が大きくなり、気温の上昇をヒートアイランド現象だけ切り離して考えるのが難しくなってきたためです。今後は、府と市それぞれの地球温暖化対策の計画の中で、ヒートアイランド対策も一体的に進めるとしています(※2)。
これまでのヒートアイランド対策の計画も、2026年3月の計画改定で地球温暖化対策の計画に統合されましたが、取り組みそのものは続いています。具体的な事業は次のとおりです(※3)。
- クールスポットモデル拠点推進事業:涼しく過ごせる先進的なスポット(クールスポット)をつくる民間事業者を募集し、緑化とあわせた遮熱塗装やミスト発生器などの設置費用を補助しました
- おおさかクールオアシスプロジェクト:暑さをしのげる涼しい空間として、施設や店舗に場所を提供してもらう取り組みです
ヒートアイランド現象と地球温暖化は別の現象ですが、対策は組み合わせて進める。4-2で見たこの考え方は、自治体の方針にも表れています。
5-3 埼玉(暑さ指数の測定・打ち水)
埼玉県は、県独自の「インターネットにつながる暑さ指数計」を、2022年度から設置しています。2026年度は、6月2日から9月30日まで、県内30か所の暑さ指数を10分おきに公表していました。暑さ指数は、気温だけでなく、湿度や日射、地面からの放射熱も考えに入れた、熱中症の危険度の目安です。28以上になると、日常生活のすべての場面で熱中症の危険性が高まります(※4)。
もうひとつの取り組みが打ち水です。2026年6月6日には、さいたま市で「さいたま打ち水大作戦2026」が開かれました。参加者が一斉に打ち水をして、サーモグラフィーカメラで測ったところ、路面温度は43℃から35℃に下がっています。水には、雨水を再生した水を使いました(※5)。路面温度が8℃下がったこの結果は、打ち水が足元の暑さをやわらげる手軽な方法であることを示しています(この数字は路面の温度の変化です)。
※1出典:東京都建設局「道路のヒートアイランド対策について(舗装の取組)」
※2出典:大阪府「大阪府市ヒートアイランド対策基本方針(令和8年3月改定)」
※3出典:大阪府「ヒートアイランド現象に対して大阪府の対策には、どのようなものがあるのですか。」
※4出典:埼玉県「県内30か所の暑さ指数をリアルタイムで公表」
※5出典:埼玉県「令和8年度のさいたま打ち水大作戦」
第6章 世界のヒートアイランド対策の取り組み事例
海外でも、暑さに備えた都市づくりが進んでいます。ここでは3つの都市を紹介します。
6-1 ソウル(歩道に日陰)
ソウル市は2026年8月19日、2028年から市内全域で「日陰を歩く権利」を保障すると発表しました。生活の中でよく歩く道に、一定の日陰をつくる方針です(※1)。
きっかけは、市が行った分析でした。市内の歩道4,031kmを1mごとに分けて日当たりを調べたところ、2025年7月28日の午前10時〜午後5時半に、歩道が日なたになっている時間は平均4時間21分でした。日陰の割合は平均44.4%で、建物の日陰が29.2%、街路樹の日陰が15.2%です。また、2023〜2025年にソウルで報告された熱中症815件のうち、31.4%は道路沿いで起きていました。
対策の中心は、木陰をつくる植樹です。地下に設備があったり歩道が狭かったりして木を植えられない場所には、季節に合わせた日よけや壁付けの日よけ、小さな休憩スペースを設けます。まず2026〜2027年に、日陰の少ない10の通りで試して、2028年から市内全域に広げる計画です。
6-2 パリ(緑化とクールアイランド)
パリ市は2024年11月20日、2030年までの「気候計画」を市議会で採択しました。約400ある施策のうち、暑さ対策には次のようなものがあります(※2)。
- 路上駐車スペースの50%(約6万台分)の舗装をはがして、緑地にする
- 緑地を300ヘクタール新しくつくる(2040年まで。2026年までに30ヘクタール)
- 2026年までに、17万本を植える
- ミスト噴水を120基新設する
もうひとつの特徴が、「クールアイランド」(îlots de fraîcheur)です。暑い時期に涼める場所を地図で公開していて、公園や教会、市の施設などの常設の場所と、ミスト噴水などの臨時の場所を合わせて、1,400か所以上あります(※3)。
6-3 シンガポール(100万本植樹)
シンガポールは、2020年4月から「OneMillionTrees」運動を進めています。10年で100万本を新たに植えて、国内の樹木を800万本超に増やす計画です。
この植樹は、ヒートアイランド現象をやわらげる効果も期待されています。国立公園局は、植えた木が日射の熱を反射して日陰をつくるうえ、葉から水分が出る「蒸散」によって、地表面や周りの気温も下がると説明しています(※4)。
進み具合も順調です。2026年2月の議会では、2026年1月時点で83万2千本以上を植えたと報告されていて、2030年の目標に向けて着実に進んでいます(※5)。
3都市に共通するのは、木や日陰、涼める場所を増やすという考え方です。どれも進行中の取り組みなので、効果がはっきりするのはこれからです。
※1出典:Korea JoongAng Daily「Seoul to guarantee 'right to walk in shade' citywide from 2028」
※2出典:パリ市「« Plus vite, plus local, plus juste » : le nouveau Plan Climat de Paris」
※3出典:パリ市「Vague de chaleur : où se rafraîchir et où boire à Paris quand il fait chaud ?」
※4出典:シンガポール国立公園局「About the Movement」
※5出典:The Online Citizen「Singapore on track to plant one million trees by 2030, over 832,000 planted so far」
第7章 暮らしの中でできるヒートアイランド対策
都市全体の対策は行政が中心になりますが、私たちが暮らしの中で取り入れられることもあります。
7-1 家でできること(遮熱・日よけ・エアコンの使い方)
家で取り入れやすいのは、「緑のカーテン」です。ゴーヤやアサガオなどのつる性の植物を窓の外側で育てて、日よけにします(※1)。環境省は、しっかり茂った緑のカーテンなら、日射の熱エネルギーを約80%カットできると紹介しています(※2)。
冷房の負担そのものを減らすことも効果的です。空調の負荷が減れば、CO₂の排出が減るだけでなく、エアコンから出る排熱も減るからです(※3)。家全体の断熱性能や省エネ性能を上げると、この効果はさらに大きくなります。
暑い夜は、エアコンを我慢せずに使って大丈夫です。そのうえで、日差しを窓の外で防ぎ、家の断熱を上げて、冷房の負担を減らしていくのがポイントです。
7-2 外でできること(日傘・打ち水・クーリングシェルター)
外出先では、まず日傘が手軽です。直射日光をさえぎって体感温度を下げてくれるので、「日陰を持ち歩く」ような感覚で使えます。混雑した場所では傘を閉じるなど、周りの安全に気をつけましょう(※4)。
打ち水は、昔ながらの暑さ対策です。国土交通省は、官民が協力して全国で「打ち水大作戦」を展開しています(※5)。5-3で見たように、イベントで路面温度が下がった例もあります。
暑さがとくに危険な日は、「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」に避難する方法もあります。市町村が指定した涼しい施設で、熱中症特別警戒アラートが発表されている期間は、誰でも利用できます(※6)。2026年9月18日時点で、1,260の市区町村が指定しています(※7)。場所や開放時間は、お住まいの市区町村のサイトで確認してください。
※1出典:国土交通省「環境:ヒートアイランド対策」
※2出典:環境省 COOL CHOICE「優しい光に包まれるグリーンカーテンで、涼をとる」
※3出典:環境省「ヒートアイランド対策ガイドライン 第1章 ヒートアイランド現象とは」
※4出典:埼玉県「暑さ対策・ヒートアイランド対策」
※5出典:打ち水大作戦 2026
※6出典:環境省「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)」リーフレット
※7出典:環境省 熱中症予防情報サイト「指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)・リンク集」
第8章 よくある質問(FAQ)
Q1. ヒートアイランド現象と地球温暖化は何が違う?
A. いちばんの違いは、原因と影響が及ぶ範囲です。地球温暖化は、主にCO₂などの温室効果ガスが増えることで起こり、影響は地球全体に及びます。一方、ヒートアイランド現象は、人工排熱が増えること、地面が人工物で覆われること、建物が密集することが主な原因で、おもに都市部で起こります(※1)。
Q2. 熱帯夜と猛暑日は何が違う?
A. 熱帯夜は夜の暑さ、猛暑日は昼の暑さを表す言葉です。熱帯夜は、夜間の最低気温が25℃以上の日(※2)、猛暑日は、1日の最高気温が35℃以上の日のことです(※3)。なお、気象庁は2026年4月17日、最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と呼ぶことに決めました(※4)。
Q3. 郊外や田舎でもヒートアイランド現象は起きる?
A. 起きます。ただし、強さは都市化の程度によって変わります。気象庁の分析では、都市化の影響が小さい15地点の年平均気温は、100年あたり1.8℃上がっています。一方、都市化率が40%台の新潟は2.3℃、鹿児島は2.7℃で、どちらもこれを上回っています(※5)。全国の観測地点で見ても、周辺の都市化率が高い地点ほど、気温の上昇率が大きい傾向があります(※6)
Q4. 個人でできる対策はある?
A. あります。緑のカーテンや日傘、打ち水など、手軽に始められるものがあります。暑さがとくに危険な日は、クーリングシェルターも活用してください。くわしくは第7章をご覧ください。
※1出典:環境省「ヒートアイランド対策ガイドライン 第1章 ヒートアイランド現象とは」
※2出典:気象庁「ヒートアイランド現象 大都市における熱帯夜日数の長期変化傾向」
※3出典:気象庁「最高気温が40℃以上の日の名称に関するアンケートについて」
※4出典:気象庁「最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」に決定」
※5出典:気象庁「ヒートアイランド現象 都市化率と平均気温等の長期変化傾向」
※6出典:気象庁「ヒートアイランド現象| 気温の長期変化傾向と都市化率の関係」
第9章 まとめ
ヒートアイランド現象は、地面が人工物で覆われ、人工排熱が増え、建物が密集することで、都市の気温が周りより高くなる現象です。とくに夜は気温が下がりにくく、熱帯夜が増える原因にもなります。地球温暖化とは原因も範囲も別ですが、都市ではこの2つが重なって、暑さがいっそう厳しくなります。
対策も、2つの現象を分けて考えながら、組み合わせて進めることが大切です。東京や大阪、ソウル、パリ、シンガポールでは、緑や日陰、涼める場所を増やす取り組みが広がっています。私たちも、緑のカーテンや日傘、省エネなど、できることから始めてみましょう。





