「地熱発電」と聞くと、温泉大国・日本にぴったりのエネルギーに思えるかもしれません。しかし実際には、日本の地熱発電の開発はあまり進んでいないのが現状です。この記事では、地熱発電のしくみと、日本で普及が進まない理由を解説していきます。
第1章 地熱発電のしくみとは
1-1 地熱発電の原理(地下の蒸気・熱水とタービン)
地熱発電では、地下深くにある高温の岩盤層から蒸気と熱水を取り出し、その力でタービンを回して発電機を動かします。
まず、地表から地下1,000〜3,000メートル程度まで井戸(地熱井)を掘削すると、200度前後の蒸気と熱水が混ざった状態で噴き出してきます。これを「気水分離器」という装置に通し、蒸気と熱水を分離します。分離された蒸気は発電機に直結したタービンに送られ、タービンを回転させて電力を生み出します。一方、分離された熱水と、タービンを回し終えて冷えた蒸気(復水)は、「還元井」と呼ばれる別の井戸を通じて再び地下に戻され、地熱資源の枯渇を防ぎながら循環的に利用されています。
火山活動によって生じるマグマの熱がこの地熱貯留層を作り出しているため、火山国である日本は地熱資源そのものは非常に豊富だといえます。
1-2 フラッシュ方式とバイナリー方式の違い
地熱発電には主に「フラッシュ方式」と「バイナリー方式」の2種類があります。
フラッシュ方式は、地下から取り出した高温・高圧の蒸気をそのままタービンに送り込んで発電する方法で、比較的大規模な発電に向いています。
一方、バイナリー方式は、地熱の蒸気や熱水で、沸点の低い媒体(ペンタンなどの有機物やアンモニア水など)を加熱・気化させ、その媒体の蒸気でタービンを回す方式です。タービンを回した媒体は、冷却して液体に戻したあと、再び加熱・気化させて循環利用します。バイナリー方式は、150度未満の中低温の熱源でも発電できるため、温泉地などでこれまで使われていなかった熱を利用して小規模な発電を行う場合にも適しています。
第2章 地熱発電のメリット
地熱発電には、他の再生可能エネルギーにはない独自の強みがあります。ここでは代表的な3つのメリットを見ていきましょう。
2-1 天候に左右されないベースロード電源
太陽光発電や風力発電が天候や時間帯によって出力が変動するのに対し、地熱発電は地下の熱源を安定的に利用できるため、季節や天候に左右されず24時間安定した発電が可能です。こうした特性から、電力需給の土台となる「ベースロード電源」として位置づけられています。
2-2 CO₂排出が少なく環境負荷が低い
地熱発電は化石燃料を燃焼させないため、発電時のCO₂排出量は火力発電と比べて大幅に少なく、ライフサイクルCO₂排出量は約13g-CO₂/kWhと再生可能エネルギーの中でも最低水準です(※)。
2-3 燃料輸入が不要でエネルギー自給に貢献
地熱発電は国内の地下資源をそのまま活用するため、海外からの燃料輸入に依存しません。エネルギー自給率の向上や、資源価格の変動に左右されない安定した電力供給という観点からも注目されています。
第3章 日本は地熱資源量世界3位
3-1 世界の地熱資源量ランキングと日本の位置づけ
日本は火山が多く、地下に豊富な地熱資源を有しています。地熱資源量は2,347万kW(2012年度環境省調査) と試算されており、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位です(※1)。
なお、ここでいう「地熱資源量」とは、国内の地熱資源を発電に利用した場合に、どの程度の発電能力に相当するかを推計したものです。2,347万kWは、国内にある地熱資源を将来的に発電に利用できる可能性を、発電能力に換算して示した数値です。
3-2 資源量世界3位なのに設備容量は世界10位という実態
日本は豊富な地熱資源量を持つ一方、実際の地熱発電の導入規模はそれほど大きくありません。
2025年末時点で、日本で稼働している地熱発電所の設備容量(その設備が持つ発電能力)は合計約60.7万kW(※2)。国内の地熱資源量に比べて、発電設備の規模は小さい状況です。世界順位も第10位と、資源量の第3位から大きく下がります。
日本地熱協会も、豊富な地熱資源量がある一方で、十分に利用されていない日本の現状を指摘しています(※3)。
※1出典:資源エネルギー庁 「もっと知りたい!エネルギー基本計画④」
※2出典:ThinkGeoEnergy「Global Top 10 Geothermal Power Countries at Year-End 2025」
※3出典:日本地熱協会「日本の地熱発電所」
第4章 なぜ日本で地熱発電が少ないのか|3つの理由
世界有数の地熱資源を持ちながら、日本で地熱発電があまり普及しないのはなぜでしょうか。その背景には、主に3つの理由があります。
4-1 資源の約8割が国立・国定公園内の地下にある
最大の理由のひとつが、地熱資源のおよそ8割が国立公園・国定公園などの自然公園の地下に存在していることです(※1)。日本では自然公園法により、貴重な自然環境を守るため公園内での開発行為が厳しく制限されてきました。火山地域の多くがそのまま自然公園に指定されているため、地熱発電に適した高温の熱源があっても、発電所を建設できる場所が限られてしまうのです。
4-2 温泉事業者との調整の難しさ
地下から熱水をくみ上げる地熱発電では、周辺の温泉に影響を与える可能性があります。たとえば、温泉のお湯が減ったり、温度や成分が変わったりすることへの懸念があるため、地熱発電を開発する際には、周辺の温泉事業者や地域住民に計画を説明し、理解を得ながら進めることが重要です。実際に、日本温泉協会からは、地熱開発に関する規制緩和について慎重な議論を求める要望書が提出されたこともあります(※2)。
※1出典:資源エネルギー庁 「もっと知りたい!エネルギー基本計画④」
※2出典:日本温泉協会「「地熱開発のための国立・国定公園内の規制緩和に反対する」要望書を環境省に提出しました。」
4-3 開発期間の長さと資金調達の難しさ
地熱発電は、地表からは地下の資源量や温度を正確に把握できないため、事前調査・掘削調査・環境アセスメントといった段階を経る必要があります。調査開始から実際に発電所が運転を始めるまでには、一般的に10年以上の長い年月がかかるとされています。加えて、多額の初期投資をしても、掘削してみるまで期待した量・温度の地熱資源が得られるかどうかわからないというリスクもあり、民間事業者が参入しにくい構造的な課題となってきました。
第5章 国の対策と今後の展望
5-1 地熱開発加速化プランによる規制緩和
こうした課題を受けて、国は地熱発電の開発を進めやすくし、発電所の運転開始までにかかる期間を短くする取り組みを進めています。自然公園法は1994年、2012年、2015年と段階的に規制が緩和され、2021年には「地熱開発加速化プラン」が公表されました。
このプランでは、自然環境や温泉資源に配慮しながら規制や手続きを見直し、従来10年以上かかっていた地熱発電の開発期間(リードタイム)を2年程度短縮し、最短8年程度にすることを目指しています(※) 。
5-2 次世代型地熱発電への期待
近年では、従来型の地熱発電に加えて、より深い地層の高温岩体を利用する技術など「次世代型」と呼ばれる地熱発電の研究開発も進められています。国立公園内での優良事例の形成や、地域協議会を通じた住民・温泉事業者との合意形成の取り組みも各地で始まっており、今後の開発拡大が期待されています。
※出典:資源エネルギー庁「もっと知りたい!エネルギー基本計画④」
第6章 よくある質問(FAQ)
Q1. 地熱発電と温泉は共存できるのですか?
A.地熱発電と温泉は同じ地熱資源を利用するため、開発の際には事前の影響調査や地元温泉組合との合意形成が重要とされています。実際に既存の温泉地の未利用熱を活用したバイナリー発電など、共存を図りながら導入されている発電事例もあります。
Q2. バイナリー発電とは何ですか?
A.地熱の蒸気や熱水で沸点の低い媒体を加熱・気化させ、その蒸気でタービンを回す発電方式です。150度未満の中低温の熱源でも発電できるため、既存の温泉施設でも導入しやすい方式とされています。
Q3. 地熱発電のコストは高いのですか?
A.初期の調査・掘削費用が大きく、開発期間が長いことから初期投資の負担は大きい発電方式です。一方で、一度発電所が稼働すれば燃料費がかからず、長期的には安定した発電コストが期待できるとされています。
Q4. 地熱発電は今後増えていくのですか?
A.国は地熱発電を増やすために、開発にかかる期間を短くしたり、規制や手続きを見直したりする取り組みを進めています。またこれまで利用が難しかった地熱資源(深い場所にある高温の岩盤など)を活用する「次世代型地熱発電」の技術開発も進んでいます。
第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)では、2040年度に地熱発電の設備容量を150万kW以上に拡大する目標が示されています。こうした取り組みが進み、地域や温泉事業者の理解を得ながら開発できれば、今後さらに導入が進む可能性があるでしょう(※)。
※出典:資源エネルギー庁「地熱発電も「次世代」へ!課題をクリアし日本の地熱を最大限に活用」
第7章 まとめ
地熱発電は、地下の蒸気や熱水を利用してタービンを回す、天候に左右されない安定した再生可能エネルギーです。日本は地熱資源量で世界3位という豊富なポテンシャルを持ちながら、実際に発電設備として利用されているのはその一部にとどまっています。その背景には、地熱資源の多くが国立・国定公園内にあること、温泉事業者との調整が必要なこと、開発に長い期間と多額の費用がかかることなどがあります。
こうした課題に対して、国は規制や手続きを見直して開発期間を短縮する取り組みや、次世代型地熱発電の技術開発を進めています。温泉や自然環境との共存を図りながら、豊富な地熱資源をどこまで活用できるか、今後の動向が注目されます。
