海に風車を建てて発電する洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力として導入が加速しています。一方で、海は漁業者にとって暮らしの現場でもあり、漁場や生態系への影響を心配する声も少なくありません。懸念と期待、両方の実態を整理してみましょう。
【この記事でわかること】
- ・洋上風力発電が漁業に与える影響の実態
- ・風車が「魚礁」になるといわれる理由
- ・漁業者と発電事業者が共生に向けて取り組んでいること
- ・私たちの食卓とのつながり
第1章 洋上風力発電とは?2030年の導入目標と日本での広がり
四方を海に囲まれた日本にとって、洋上風力発電は再生可能エネルギーの切り札として期待されています。まずは基礎知識から見ていきましょう。
洋上風力発電とは、海上に風車を設置して発電する仕組みです。陸上風力と比べて広い設置面積を確保しやすく、安定した強い風を利用できる点が強みです。着床式と浮体式の2つの方式があり、遠浅の海が少ない日本では浮体式の技術開発も進められています。
政府は2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500万kWの案件形成を目標に掲げています(※1)。 2024年時点で第1~第3ラウンドの事業者選定が済んでいる案件は、合計約460万kWとなっています(※2)。
導入が急速に進む一方で、海は漁業者にとって暮らしの現場でもあります。次章では、漁業への具体的な影響を見ていきましょう。
発電の仕組みや、再生可能エネルギー全体における洋上風力発電の位置づけについては、以下の記事で紹介しています。
※1出典:資源エネルギー庁「これまでの洋上風力政策の進捗」
※2出典:資源エネルギー庁「洋上風力発電に関する国内外の動向」
第2章 洋上風力発電は漁業にどんな影響を与えるの?
洋上風力発電は、漁場の一部で操業が制限されるなど、漁業にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。「魚が獲れなくなるのでは」と不安に感じる方もいるでしょう。
2-1 漁場が狭くなる・操業が制限される懸念
風車が設置された海域では、まき網や底びき網のように広い範囲を使う漁法は、物理的に操業しづらくなる場合があります(※1)。漁場そのものを失いかねない懸念があるためです。
一方、釣りや刺し網などは、まき網や底びき網に比べると影響は比較的小さいとされています。漁法の種類によって受ける影響の大きさは異なるということです。
2-2 水中騒音や海底ケーブルによる生態系への影響
建設工事や運転中に発生する水中の騒音が、海洋生物に影響を与える可能性も指摘されています(※1)。魚の分布や回遊ルートが変わることへの懸念です。
こうした懸念に対応するため、環境省と経済産業省は2025年9月、「洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン」を公表しました(※2)。稼働後にどのような項目を調査し、国と事業者がどう役割分担するかを整理したものです。
影響の実態を正確に把握するための仕組みが、ようやく整い始めた段階といえるでしょう。
海洋汚染や生物多様性の喪失など、海をめぐる環境問題はほかにもさまざまです。全体像を知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
※1出典:東京水産振興会「洋上風力発電の動向が気になっている(1)洋上風力発電と漁業」
※2出典:環境省「『洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン』の公表及び意見の募集(パブリックコメント)の結果について」
第3章 風車が「魚礁」になる?期待されているプラスの効果
影響を心配する声がある一方で、洋上風力発電には漁業にとってプラスに働く可能性も期待されています。
3-1 風車の土台が新しい魚のすみかになる仕組み
海底に固定された風車の基礎部分には貝や海藻が付着しやすく、魚の新しいすみかになる「魚礁効果」が期待されています(※1)。あわせて、リアルタイムで海況情報を提供する観測プラットフォームとしての活用、養殖施設の併設、非常用電源としての利用といった可能性も検討されています。
3-2 コンブ養殖との共存事例(北海道・せたな町)
期待だけでなく、実際の共存事例もあります。北海道せたな町では、風力発電設備とコンブ養殖が共存しており、地域漁業の活性化につながる可能性が示されています(※2)。
懸念とメリット、両方の側面を押さえておくことが大切です。ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
| 観点 | 懸念されている影響 | 期待されている効果 |
|---|---|---|
| 漁場・操業 | 一部の漁場が使いにくくなる | 養殖施設をあわせて整備できる可能性がある |
| 生態系 | 魚の行動や回遊ルートが変わる可能性 | 風車の土台が魚のすみかになる |
| 情報・インフラ | ー | 海の状況を観測したり、非常時の電源として活用できる |
※1出典:東京水産振興会「洋上風力発電の動向が気になっている(1)洋上風力発電と漁業」
※2出典:水産庁「漁業と協調する洋上風力発電について」
第4章 漁業者と発電事業者はどう折り合いをつけているのか
国内の海域では、発電事業者と漁業者が協議会を通じて共生策を積み上げています。懸念とメリットが両方ある中、現場ではどのように調整が進んでいるのでしょうか。
4-1 秋田県沖の共生策と3つの柱
秋田県能代市・三種町・男鹿市沖など、促進区域に指定された海域では、地元企業や自治体と連携した地域共生策が進められています(※1)。
共生策は次の3本柱で構成されています。
- 持続可能な漁業を支える体制づくり
- 地域産業・雇用の振興
- 住民の生活支援
漁業だけでなく、地域全体の暮らしを視野に入れた取り組みである点が特徴です。
4-2 漁業者への補償はどうなっている?
洋上風力発電では、風車を建てる前に発電事業者が漁業者へ一律にまとまった補償金を支払う仕組みにはなっていません。
その代わり、事業者は漁業や地域と長く共存していくため、漁業振興や地域振興などの共生策を通じて地域へ利益を還元していく考え方が採用されています。
また、洋上風力発電を進める区域(促進区域)を国が指定する際には、漁業者や自治体などの関係者が協議を行います。漁業に著しい支障があると判断される海域は、促進区域には指定されません(※2)。
一時的な補償金を支払って終わりではなく、地域と長く共生していくことを重視しているのが、現在の制度の特徴です。
※1出典:資源エネルギー庁・国土交通省港湾局「洋上風力発電による地域・漁業振興策 事例集」
※2出典:東京水産振興会「洋上風力発電の動向が気になっている(1)洋上風力発電と漁業」
第5章 洋上風力発電は私たちの食卓にどんな影響がある?
洋上風力発電が食卓に与える影響は、現時点ではまだ限定的にしかわかっていません。ここまでの内容を、私たちの暮らしに引き寄せて考えてみましょう。
5-1 魚の価格や供給への影響を考える
結論からいうと、洋上風力発電が魚の価格や供給量に与える影響を示す具体的なデータは、現時点では十分にそろっていません。環境影響モニタリングの仕組みが整い始めたのは2025年のこと。今後、稼働実績が積み上がるにつれて、影響の実態が徐々に見えてくる段階といえるでしょう。
不確かな情報で不安を抱くのではなく、「まだデータが少ない分野である」という現状を正直に受け止めることが出発点です。
5-2 これからの洋上風力発電と暮らしの向き合い方
私たち消費者にできることは、まず現状を知ることです。魚礁効果のように恩恵が期待できる面と、漁場喪失のように課題が残る面。どちらか一方だけを見るのではなく、両方の視点を持っておきたいところです。
普段食べている魚がどの海域で獲れたものか、意識してみるのもひとつの方法です。地域の漁業と再生可能エネルギーがどのように両立していくのか、今後の動向を追いかけていく価値があるテーマでしょう。
そもそもなぜ再生可能エネルギーへの転換が急がれているのか、背景を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
第6章 よくある質問(Q&A)
Q1. 洋上風力発電が増えると魚が獲れなくなりますか?
A. 漁法によって影響の大きさはさまざまです。まき網や底びき網のように広い範囲を使う漁法は漁場を失う懸念がありますが、影響が小さいとされる漁法もあり、一律に「獲れなくなる」とは言えないのが実情です。
Q2. 洋上風力発電と漁業は本当に共存できるのですか?
A. 北海道瀬棚町のコンブ養殖のように、実際に共存している事例があります。ただし、すべての海域で同じように共存できるわけではありません。鍵を握るのは、海域ごとの漁業形態に応じた対話の積み重ねといえるでしょう。
Q3. 風車の近くでは漁業ができなくなるのですか?
A. すべての漁業ができなくなるわけではありません。網や縄を広く使う漁法は制約を受けやすい一方、釣りなど狭い範囲で完結する漁法への影響は比較的小さいとされています。
Q4. 洋上風力発電で魚が増えることもあるのですか?
A. 風車の基礎部分に貝や海藻が付着し、魚の新しいすみかになる「魚礁効果」が期待されています。ただし効果の大きさは海域や生態系によって異なり、今後の調査で実態が明らかになっていく段階です。
Q5. 私たちが食べる魚の値段は上がるのですか?
A. 現時点で、価格への影響を裏付ける具体的なデータはそろっていません。環境影響のモニタリング体制が整い始めたのも2025年です。今後の稼働実績とともに、実態が明らかになっていくと考えられます。
第7章 まとめ
洋上風力発電は、風車が漁場を狭めたり、水中の音が魚に影響したりする懸念がある一方で、風車の土台が魚礁となるといったプラスの可能性も持つ技術です。秋田県のように、漁業者と発電事業者が対話を重ねながら共生の形を探っている地域もあります。
私たちの食卓にどう影響するのかは、正直なところまだ答えが出ていません。だからこそ、懸念と期待の両方に目を向けながら、今後の動向を見守っていく姿勢が大切なのです。



