「ニュースで大気汚染の話を聞くけれど、自分や子どもの体にどんな影響があるのか、いまひとつわからない」という方は多いのではないでしょうか。この記事では、大気汚染が体に与える具体的な影響と、子どもが特に注意すべき理由を、公的機関のデータをもとに解説します。
【この記事でわかること】
- 大気汚染が呼吸器・循環器に与える影響
- 子どもが大気汚染の影響を受けやすい理由
- 世界の子どもたちが置かれている状況を示す数字
- 家庭や社会でできる大気汚染対策
第1章 大気汚染とは?主な原因と汚染物質の種類
大気汚染とは、工場や自動車などから排出された物質によって、空気の質が損なわれた状態を指します。
主な原因は、工場の煙や自動車の排気ガス、家庭からの排出、そして黄砂や火山噴出物などの自然現象です。代表的な汚染物質には、微小粒子状物質(PM2.5)、窒素酸化物(NOx)、光化学オキシダントなどがあります。
日本ではPM2.5について、健康への影響が出にくいように定められた基準として、年平均値15μg/m³以下、1日平均値35μg/m³以下という環境基準が定められています(※1)。 この数値が、次章で説明する健康影響の基準線になります。
※1出典:環境省|大気汚染に係る環境基準
第2章 大気汚染が体に与える影響とは(呼吸器・循環器を中心に)
大気汚染の健康影響というと呼吸器のイメージが強いかもしれませんが、実は循環器系にも及びます。
2-1 ①呼吸器疾患のリスク
汚染物質を吸い込み続けると、気管支炎やぜんそく、肺気腫といった呼吸器疾患のリスクが高まります。なかでもPM2.5は粒子が非常に小さく、肺の奥深くまで入り込みやすい点が特徴です。
2-2 ②循環器疾患のリスク
大気汚染は肺だけの問題ではありません。WHOなどによると、大気汚染物質は脳卒中や慢性呼吸器疾患、肺がんによる死亡の約3分の1、心臓発作による死亡の約4分の1に関わっているとされています (※1)。
2-3 ③高感受性者(子ども・高齢者・持病のある人)への影響
呼吸器系や循環器系の疾患がある人、子ども、高齢者は個人差が大きく、より低い濃度でも影響が生じる可能性があるとされています(※2)。次章では、なかでも子どもがなぜ影響を受けやすいのかを詳しく見ていきます。
※1出典:WHO|Air quality and health
※2出典:産業医科大学|PM2.5の健康影響と対策
第3章 子どもが大気汚染の影響を受けやすい理由
同じ濃度の大気汚染にさらされても、大人と子どもでは体への影響が異なります。その理由は主に3つです。
3-1 ①体重あたりの呼吸量が多い
子どもは体が小さいわりに呼吸の回数が多く、体重1kgあたりで見ると大人より多くの空気を吸い込んでいます。それだけ多くの汚染物質が体内に入りやすい状態にあるのです。
3-2 ②肺や脳が発達途上にある
子どもの体は成長の途中にあり、肺や脳がまだ完成していません。完成した大人の臓器と比べて、外からの影響を受けやすい状態が続いています。
なお、環境省が国内10都市・16小学校の児童1,466人を対象に行った調査では、年平均10.4〜19.0μg/m³のPM2.5濃度の範囲内では、肺機能の発達に有意な影響は確認されませんでした(※1)。とはいえ、長期的な影響については引き続き研究が進められています
3-3 ③屋外で過ごす時間が長い
子どもは外遊びなど、屋外で活動する時間が大人より長い傾向があります。そのため、汚染物質にさらされる時間も長くなりやすいのです。
※1出典:環境省|微小粒子状物質等大気汚染物質に係る疫学調査について
第4章 世界の子どもたちに広がる大気汚染の実態を数字で見る
国内の状況だけでなく、世界にも目を向けると、子どもと大気汚染の関係はより深刻な数字で語られています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 世界のPM2.5基準超過にさらされる15歳未満の子ども | 93%(約18億人) |
| 低・中所得国の5歳未満児のうち基準超過にさらされる割合 | 98% |
| 高所得国の5歳未満児のうち基準超過にさらされる割合 | 52% |
4-1 ①世界の子どもの93%が基準超過の大気にさらされている
世界の15歳未満の子どものうち93%、約18億人が、WHOガイドラインに基づく基準値を超えるPM2.5にさらされているといわれています(※1)。日本にいるとなかなか実感しにくいですが、これが世界の現実です。
4-2 ②所得による地域差(低・中所得国98%/高所得国52%)
この問題には、大きな地域差があります。低・中所得国では5歳未満児の98%が基準超過の大気にさらされているのに対し、高所得国では52%。その背景には、暖房や調理に使う燃料の違いなど、生活環境の格差があります。
4-3 ③大気汚染に関連する子どもの死亡者数
2016年時点の推計では、大気汚染に関連する呼吸器感染症で年間約60万人の子どもが命を落としているとされていました(※1)。その後、2021年にはユニセフが、5歳未満児の大気汚染による死亡について、1日あたり約2,000人、年間約73万人と報告しています。世界の死亡リスク要因の第2位として「大気汚染」をあげており、状況は改善していません(※2)。
これらの数字は、海外だけの話ではありません。PM2.5などの汚染物質は国境を越えて移動するため、日本も無関係ではないのです。
※1出典:国立環境研究所 環境展望台|世界保健機関、9割以上の子供が有害な大気汚染に曝されていると報告
※2出典:ユニセフ|毎日約2,000人の5歳未満児、大気汚染で死亡
第5章 大気汚染は環境・生態系にも影響する
大気汚染の影響は、人の健康だけにとどまりません。
窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)は酸性雨を引き起こし、森林や湖沼の生態系にじわじわとダメージを与えます。光化学オキシダントの濃度が上がると、農作物の生育にも悪影響が出ることがあります。
以下の記事では、大気汚染が他の環境問題とどう連鎖しているかも解説されているので、あわせて参考にしてみてください。
第6章 気候変動対策と大気汚染対策はセットで進む
化石燃料を燃やすと、CO2と同時に窒素酸化物や粒子状物質などの大気汚染物質も発生します。つまり石炭火力発電所を減らしたり、ガソリン車をEVに切り替えたりする「脱炭素」の取り組みは、そのまま大気汚染の改善にもつながるのです。そのなかでも、メタン排出量の削減は、気温上昇の抑制と大気質の改善を同時に進められる対策として、IPCCの報告書でも位置づけられています(※) 。
一方で、脱炭素化を急ぐだけではアジアの一部地域を中心にWHOの大気質ガイドラインの達成には不十分とも指摘されており、規制や技術開発との組み合わせが求められています。
以下の記事で紹介されているとおり、2024年の日本の電源構成では火力発電が約65%を占めています。この構成が変わっていくかどうかは、気候変動対策だけでなく、大気汚染の観点からも注目に値します。
※出典:IPCC|AR6 WG1 Chapter 6: Short-lived climate forcers
第7章 私たちにできる大気汚染対策
大気汚染への対策は、行政や企業だけの課題ではありません。日常のなかでできることもあります。
7-1 ①屋外での対策
まず知っておきたいのが、今いる地域の大気の状態です。環境省の「そらまめくん」では、PM2.5などの濃度をリアルタイムで確認できます(※1)。数値が高い日は外出や激しい運動を控えるなど、状況に合わせた行動の参考になります。
7-2 ②室内でできる対策
室内だからといって安心とは限りません。換気のタイミングを選ぶことや、空気清浄機を活用することが有効です。また、室内での喫煙や不十分な換気も空気の質を下げる要因になるため、注意してください。
7-3 ③社会・行政の取り組みを知る
個人の対策だけでなく、社会全体の動きにも目を向けてみてください。経済産業省によると、揮発性有機化合物(VOC)の排出量は2010年度までに2000年度比30%削減という目標に対し、実績では40%以上の削減を達成しました(※2)。制度と企業努力が組み合わさることで、一部の汚染物質については削減が進んでいます。
※2出典:経済産業省|揮発性有機化合物(VOC)排出抑制に向けた取組
第8章 よくある質問(FAQ)
Q1. 大気汚染は日本でも深刻な問題ですか?
A.過去と比べれば日本の大気の質は改善されてきています。ただし、PM2.5などは国境を越えて移動するため、海外からの影響を受けることもあります。環境基準を超える日もあるため、完全に安心できる状況ではありません。
Q2. PM2.5とは何ですか?
A.粒径2.5μm以下の非常に小さな粒子状物質のことです。あまりに小さいため肺の奥深くまで入り込んでしまい、呼吸器や循環器への影響が懸念されています。
Q3. 子どものぜんそくは大気汚染が原因ですか?
A.大気汚染だけが原因とは言い切れません。ただ、汚染物質への曝露がぜんそくをはじめとする呼吸器疾患のリスクを高める要因のひとつであることは、複数の調査で示されています。
Q4. マスクは大気汚染対策として効果がありますか?
A.密着性や性能によって効果は大きく異なります。 PM2.5対応のマスクであれば一定の効果が期待できますが、完全に防げるわけではないので、大気汚染が気になる日はマスクと合わせて外出時間を短くする工夫も取り入れてください。
Q5. 大気汚染の状況はどこで確認できますか?
A.環境省の「そらまめくん」で地域ごとのPM2.5濃度などをリアルタイムで確認できます(※)。外出前に習慣的にチェックしてみてください。
Q6. 大気汚染は今後改善していきますか?
A.脱炭素化や排出規制が進めば、大気汚染物質も減っていくと期待されています。ただし地域によっては脱炭素化だけでは不十分なケースもあるので、さまざまな対策を組み合わせていく必要があるでしょう。
第9章 まとめ
大気汚染は呼吸器だけでなく循環器にも影響します。なかでも子どもは、体重あたりの呼吸量の多さ、発達途上にある肺や脳、屋外で過ごす時間の長さから、大気汚染の影響を受けやすい存在です。世界では子どもの93%が基準超過の大気にさらされており、その深刻さは数字が物語っています。
一方で、環境基準の範囲内であれば必要以上に恐れなくてよいこともわかっています。「そらまめくん」で日々の状況を把握しながら、換気や外出時間の調整など、できることから始めてみてください。


