「日本の水不足」と聞くと意外に思うかもしれませんが、日本は一人当たりの水資源量で見ると世界平均の半分以下という現実があります。世界では40億人が水不足を経験しているなか、日本も決して無縁ではありません。この記事では、水不足が起きる原因を整理したうえで、今日から家庭でできる節水の工夫を紹介します。
【この記事でわかること】
- ・水不足が起こる世界的な原因
- ・水資源が豊かに見える日本が抱える意外なリスク
- ・気候変動が水循環に与える科学的な影響
- ・今日から始められる節水の工夫と具体的な効果
第1章 水不足とは?世界で広がる深刻な現状
水不足がどれくらい深刻な状態を指すのか、まずは国際的な基準から確認していきましょう。
水資源の逼迫度を測るものさしとして、「水ストレス指標」という考え方が使われています。これは、一人当たりが1年間に使える水資源量をもとに、その地域の水事情がどれだけ厳しいかを判定する国際的な基準です。水資源量が少なくなるほど深刻度が増し、次の3段階に区分されます。
| 区分 | 一人当たり年間水資源量 | 状態の目安 |
|---|---|---|
| 水ストレス下 | 1,700立方メートル未満 | 水利用に制約が出始める水準 |
| 水不足 | 1,000立方メートル未満 | 生活や産業に支障が出やすい水準 |
| 絶対的水不足 | 500立方メートル未満 | 生存に関わるほど深刻な水準 |
数値が小さくなるほど、深刻度が一段階ずつ上がっていくイメージです。
この指標にもとづくと、世界はすでに厳しい状況にあります。国土交通省が引用するOECD(経済協力開発機構)の予測によると、2050年には世界人口の40%以上にあたる39億人が、深刻な水不足に見舞われる河川流域で暮らすことになる可能性があります(※1)。世界人口の実に5人に2人以上が、この表でいう「水不足」相当の状態に置かれる計算です。
この指標とは別に、UNEP(国連環境計画)は、世界人口の少なくとも50%にあたる40億人が、年に1か月以上水不足を経験していると報告しています。さらにFAO(国連食糧農業機関)の試算では、2025年までに18億人が「絶対的水不足」の状態に置かれる見通しです(※2)。
数字だけを見ると遠い世界の話に感じるかもしれませんが、この水ストレスの構造は日本にも無縁ではないのです。詳しくは3章以降で解説します。
※1出典:国土交通省「水資源:水資源問題の原因」
※2出典:UNEP「Global water shortages are looming」
第2章 水不足はなぜ起こる?世界的な4つの原因
水不足は、GA_No.2_今起きている環境問題10選|種類・原因・被害を一覧で解説でも取り上げている世界的な環境課題のひとつで、背景には複数の要因が絡み合っています。ここでは、主な原因を4つに整理しました。
2-1 人口増加による水需要の拡大
世界人口が増えるほど、飲用・衛生・農業・エネルギー生産に使う水の需要も膨らみます。なかでも農業用水の割合は大きく、世界で使われる淡水の約70%が農業に充てられているといわれています(※)。人口増加が続く限り、食料生産のための水需要も膨らみ続けるため、人口増加は水不足を引き起こす中心的な要因のひとつとされています。
※出典:UNEP「Global water shortages are looming」
2-2 気候変動による降水パターンの変化
気候変動は、降水量そのものよりも「降り方」を変えてしまう点が問題です。実際、地球温暖化にともなって陸域の蒸発散量が増加していることが、気候変動を科学的に評価する国連の専門家組織IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書で、中程度の確信度(注)とともに示されています(※)。
蒸発散が増えれば、地表に残る水は少なくなります。同時に「湿潤な季節はより湿潤に、乾燥した季節はより乾燥に」なる傾向も指摘されており、年間の降水量が変わらなくても、乾季には深刻な水不足が起きやすくなるのです(※)。
気候変動そのものが水循環に与える影響については、こちらの記事をご覧ください。
(注)中程度の確信度:この変化についてIPCCが示す評価の確からしさは「非常に高い」ではなく「中程度」にとどまっており、今後さらに研究が積み重ねられていく段階です。
※出典:IPCC「AR6 WG1 Chapter 8: Water Cycle Changes」(2021年)
2-3 水質汚染とインフラ整備の遅れ
使える水があっても、汚染されていれば意味がありません。UNEPは、水質汚染や資源の過剰採取、老朽化したインフラからの漏水も、水不足を悪化させる要因として挙げています(※)。せっかく確保した水も、輸送の途中で漏れてしまえば無駄になってしまいます。
水の量だけでなく質の管理も課題です。近年は衛星データやAIを活用して水質を継続的に把握し、対策の優先順位をつける取り組みも進められています(※)。
プラスチックによる海洋汚染問題については、こちらの記事をご覧ください。
※出典:UNEP「Global water shortages are looming」
2-4 水資源をめぐる紛争
水資源が乏しい地域では、川や湖、地下水といった限られた水源の利用権をめぐって、国や地域の間で対立が生じることがあります。もともと水量に余裕がない場所ほど、わずかな取水量の変化が生活や農業に直結するため、対立が先鋭化しやすい構造があります。気候変動によって利用可能な水がさらに減れば、こうした資源をめぐる競合は一層強まるでしょう。
第3章 日本も水不足と無縁じゃない!知られざるリスク
ここまでは世界的な視点で見てきましたが、日本の状況はどうでしょうか。水資源に恵まれた国というイメージがある日本ですが、実態は少し異なります。
日本の年間降水量自体は世界平均より多いものの、一人当たりの水資源量で見ると印象は変わります。国土交通省のデータによると、日本の一人当たり水資源賦存量は年間およそ3,400㎥。世界平均の約7,100㎥と比べると、半分以下の水準です。東京や横浜など首都圏に限れば、北アフリカや中東の国々と同程度まで下がります。
日本の水資源が地域や季節によって偏在している点も重要です。気候変動適応情報プラットフォーム(国立環境研究所) によると、四国の一部地域では、最近30年間のうち8年以上で上水道の減断水が発生しています(※)。平成28年の全国的な渇水も、関東地方の記録的な少雪と、中国・四国地方の夏の記録的な少雨が主な原因でした。国全体で見た年間降水量が多くても、 時期や地域に偏りがあれば水不足は避けられないことがわかります。
将来的にも地域差は続く見通しです。2099年の予測では、北海道や東北の日本海側、九州西部で水資源量が増える一方、紀伊半島東部や中部山岳地域、伊豆半島では大幅に減少すると予測されています(※)。
※出典:国立環境研究所 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「水環境・水資源」
第4章 気候変動は日本の水循環にどう影響するのか
気候変動が日本の水資源に与える影響は、降水量の増減だけでは測れません。IPCCの評価をもとに、もう一段階詳しく見ていきましょう。
4-1 全球平均の降水量とシナリオによる地域差
IPCCの第6次評価報告書は、全球(地球全体)の平均降水量が気温1℃上昇あたり1〜3%増加すると評価しています(※1)。ただし地域や季節による差が大きく、一律に増えるわけではありません。
また農業用水への影響にも、シナリオによる差があります。シナリオとは、将来の温室効果ガス排出量を仮定した予測パターンのことで、IPCC(国連の気候変動に関する専門機関)が国際的な共通の枠組みとして定めたものです。排出を抑え気温上昇が比較的緩やかな場合を「RCP2.6」、排出量が多いまま推移し気温上昇が大きくなる場合を 「RCP8.5」と呼びます。
ここで問題になるのは、雨と雪の入れ替わりです。冬の気温が上がると、雪として降るはずだったものが雨として降るようになり、また積もった雪も早く溶けてしまいます。すると、本来は春先の代かき期(田んぼに水を張り土をならす時期)まで山に蓄えられているはずの水が、冬のうちに川へ流れてしまい、いざ必要な春に足りなくなるのです。
気候変動適応情報プラットフォーム(国立環境研究所)が、このIPCCのシナリオを使って日本の農業用水への影響を分析したところ、もともと雪解け水への依存度が高い東北・北陸では、気温上昇がゆるやかなRCP2.6でも、代かき期に使える水量が減少すると予測されています。温暖化がより進むRCP8.5では、この「雪から雨へ」の変化がより広い範囲で起きるため、近畿・中国・北海道といった地域にも同様の影響が広がると見込まれています(※2)。
※1出典:IPCC「AR6 WG1 Chapter 8: Water Cycle Changes」(2021年)
※2出典:国立環境研究所 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「水環境・水資源」
4-2 氷河や地下水にも及ぶ変化
氷河や地下水にも変化が及んでいます。IPCCの評価では、山岳氷河の縮小や春の雪融けの早期化が世界各地で確認されています(※) 。地下水も他人事ではありません。かんがい地域を中心に枯渇が進行しており、米国南部平原やカリフォルニア中央谷、中国華北平原、インド北西部が具体例として挙げられます。
※出典:IPCC「AR6 WG1 Chapter 8: Water Cycle Changes」(2021年)
第5章 今日から始められる家庭の節水の工夫
水不足の原因は、国や気候のスケールの話が中心でした。ここからは、家庭でできる工夫を数字とともに紹介します。
まず取り組みやすいのが、シャワーヘッドの交換です。環境省によると、節水型シャワーヘッドに交換すると、お湯の使用量を約35%減らすことができます。手元ボタン付きのタイプなら、4人家族で電気代が年間約18,000円、ガス代が年間約6,330円節約できます(※)。
食器洗い乾燥機の活用も効果的です。手洗いと比べて、およそ6分の1の水で洗えるといわれています。手洗いの手間を減らしながら、水も節約できる方法です。
こうした機器の入れ替えに加えて、日々の使い方を見直すことも欠かせません。次のような工夫から、始めやすいものを選んでみてください。
- 歯磨きや洗顔中は、こまめに水を止める
- お風呂の残り湯を洗濯に使う
- 洗い物はまとめて行い、水を流しっぱなしにしない
家電の性能に頼る方法と、生活習慣を見直す方法を組み合わせれば、無理なく節水を続けられます。節水は電気代の節約にもつながります。発電の仕組みに興味がある方は、こちらの記事も参考にしてください。
第6章 よくある質問(Q&A)
Q1. 日本は本当に水不足のリスクがあるのですか?
A. 日本は年間降水量で見ると世界平均を上回りますが、人口が多く、一人当たりの水資源量は少なめです。国土交通省のデータでは世界平均の半分程度とされ、地域や季節によっては渇水も発生しています。
Q2. 水不足はなぜ起こるのですか?
A. 人口増加による需要拡大、気候変動による降水パターンの変化、水質汚染やインフラ整備の遅れ、水資源をめぐる紛争が主な原因です。単一の原因ではなく、複数の要因が重なって発生します。
Q3. 水ストレスとはどういう意味ですか?
A. 一人当たりの年間水資源量が1,700㎥を下回る状態を指す国際的な指標です。1,000㎥未満は「水不足」、500㎥未満は「絶対的水不足」に区分されます。
Q4. 家庭でできる節水方法にはどんなものがありますか?
A. 節水型シャワーヘッドへの交換や、食器洗い乾燥機の活用が効果的です。歯磨き中に水を止める、残り湯を洗濯に使うといった日々の習慣も、無理なく続けやすい方法です。
Q5. 世界ではどれくらいの人が水不足の影響を受けていますか?
A. UNEPによると、世界人口の少なくとも50%にあたる40億人が、年に1か月以上水不足に直面しています。FAOの試算では、2025年までに18億人が絶対的水不足に直面する見通しです。
第7章 まとめ
水不足は、気候変動と人口増加という2つの大きな流れが重なって生じる複合的な課題です。世界では40億人がすでに水不足を経験しており、日本も一人当たりの水資源量で見れば決して楽観できる立場にはありません。
原因を知ることは、対策を考える第一歩です。節水型シャワーヘッドや食器洗い乾燥機の活用、日々の使い方の見直しなど、家庭でできることから始めてみてはいかがでしょうか。一つひとつの行動は小さく見えても、積み重なれば確かな節水効果になります。まずは今日、シャワーの使い方を少し変えてみることから始めてみましょう。



