カーボンプライシングとは、CO2を出した分だけお金の負担が生じるようにすることで、企業や私たちの行動を変え、環境問題の解決を後押しする仕組みです。 脱炭素を進める政策として世界各国で導入が広がっており、日本でも注目が高まっています。
しかし、実際にニュースで「炭素税」や「排出量取引」という言葉を見かけても、「結局、何のための仕組み?」と感じている方は多いかもしれません。
環境問題は本当に「価格」だけで解決できるのか——この記事では、カーボンプライシングの仕組みと種類、SDGsとの関係性、世界と日本の現状、暮らしへの影響、そして価格だけでは解決しきれない課題まで整理します。
【この記事でわかること】
- ・SDGsや環境問題の関係性・位置づけ
- ・環境問題に関わるSDGsの目標一覧(対応表)
- ・世界と日本におけるSDGs×環境問題の取り組み事例
- ・個人・企業が今日から実践できるアクション
第1章 カーボンプライシングとは?基本をおさらい
1-1 ひとことで言うと?CO2を出した分だけ、お金がかかる仕組み
カーボンプライシングとは、CO2を出した分だけお金の負担が生じるようにして、排出を減らす行動を後押しする仕組みです(※1)。「CO2に価格をつける」と表現されることもあります。環境省は、「CO2の排出が少ない行動を、企業や私たちが自分から選べるようにするための仕組み」と説明しています(※2)。
CO2を出すたびにお金がかかるとすれば、企業は電気の使い方を見直したり、再生可能エネルギーに切り替えたりして、排出を減らそうとするでしょう。また私たち個人も、電気やガソリンをできるだけ無駄なく使おうと考えるはずです。「排出をやめなさい」と命令するのではなく、お金の面から自然に行動を変えてもらう。それがカーボンプライシングの特徴です。
CO2については、以下の記事で詳しく解説しています。
1-2 なぜ必要?環境問題の「外部不経済」という考え方
「そもそも、なぜCO2を出したらお金がかかるようにする必要があるの?」と思うかもしれません。ここで役に立つのが、経済学の「外部不経済」という考え方です。
値段がついていないものを使うと、そのせいで社会が負う負担(費用)が、使った本人の負担にならないことがあります。その結果、社会にとって望ましくない状況が生まれてしまいます。これを外部不経済といいます。公害や地球温暖化、生物多様性の損失といった環境問題は、外部不経済の代表的な例とされています(※3)。
CO2も同じです。CO2を出しても、そのせいで社会が負う負担は、出した本人のコストになりません。カーボンプライシングは、この目に見えない負担を「排出した人が払うお金」の形にして見える化し、排出する側に意識してもらう考え方なのです。
なお、世界で起きている環境問題の全体像については以下の記事でまとめています。
※1出典:環境省「カーボンプライシング」
※2出典:環境省「カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像」
※3出典:環境省「平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部第3章第1節」
第2章 カーボンプライシングとSDGsはどう関係している?
カーボンプライシングは、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」を進めるための手段のひとつとして、検討されています。なぜそう言えるのか、まずはSDGsと目標13から確認しましょう。
SDGs(持続可能な開発目標)は、世界が力を合わせて取り組む17の目標です。その13番目の目標13は、気候変動とその影響を減らすために、急いで対策を進めることを掲げています(※1)。
SDGsでは、17の目標それぞれに、より具体的な達成内容(ターゲット)が定められています。目標13では、そのターゲットのひとつに「気候変動対策を国の政策や戦略、計画に盛り込むこと」があげられています。目標13のターゲットに「カーボンプライシング」という言葉は直接出てきませんが、環境省は、2050年カーボンニュートラル(CO2などの排出を、全体として実質ゼロにすること)の実現に向けて、経済成長にもつながる形でカーボンプライシングをさらに活用していくことが検討課題だとしています(※1、2) 。つまり、目標13が求める国の気候変動対策を進める具体的な方法として、カーボンプライシングが検討されているわけです。
環境省は、カーボンプライシングに次のような効果を期待しています。
- 企業や人々の行動やお金の流れが変わり、脱炭素社会への移行が進む
- 産業構造や経済社会が変わることで、経済成長にもつながる可能性がある
こうした考え方は、目標8「働きがいも経済成長も」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標12「つくる責任 つかう責任」にも通じるものがあります。
SDGsと環境問題については、以下の記事で詳しく解説しています。
※1出典:外務省「JAPAN SDGs Action Platform 13: 気候変動に具体的な対策を」
※2出典:環境省「カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像」
第3章 カーボンプライシングの種類一覧【比較表】
カーボンプライシングには、いくつかの種類があります。環境省は、炭素税や排出量取引、クレジット取引などが各国で導入・検討されていて、企業が社内で独自に取り入れる例も出てきていると整理しています(※)。この記事では、大きく4つに分けて紹介します。まずは比較表で、全体像をつかんでおきましょう。
| 手法 | 仕組み | 主な例 |
|---|---|---|
| 炭素税 | CO2の排出量に応じて、税金を払う | フィンランド、スウェーデン、日本の「地球温暖化対策のための税」 |
| 排出量取引制度(ETS) | 企業ごとにCO2などの排出量の上限を決め、余った分・足りない分を売り買いする | EU、東京都、埼玉県 |
| クレジット取引 | CO2などの排出を減らした分や、森林がCO2を吸収した分を「クレジット」にして売り買いする | Jクレジット、二国間クレジット制度(JCM) |
| インターナルカーボンプライシング | 企業が社内で独自に、CO2排出量に応じた費用を決める | 企業の投資判断など |
3-1 炭素税
炭素税は、燃料や電気を使ってCO2を出したとき、その量に応じて税金を払う仕組みです。税率は国が決めます。
導入は北欧が早く、フィンランドが1990年、スウェーデンが1991年です。日本でも、炭素税にあたる「地球温暖化対策のための税」が2012年に導入されました(※1)。
3-2 排出量取引制度(ETS)
排出量取引制度(ETS)は、対象となる事業者などに排出枠を設け、余った排出枠と不足する排出枠を売買できるようにする仕組みです。 EUの制度では、CO2以外の温室効果ガスも対象になっています(※2)。上限を超えそうな企業は排出量を買い、余裕のある企業は売ることができます。排出量の価格は、買いたい企業と売りたい企業のバランス(需要と供給)で決まります。v
炭素税は「価格を先に決める」のに対して、排出量取引は「排出量の上限を先に決めて、価格は市場で決まる」という違いがあります。
導入は、世界ではEUが2005年に始めました。日本では、東京都が2010年、埼玉県が2011年に、それぞれ都・県の制度として導入しています(※1)。
3-3 クレジット取引
クレジット取引は、CO2などの温室効果ガスの排出を減らした分や、森林がCO2を吸収した分を「クレジット」という形にして、売り買いできるようにする仕組みです(※3)。排出を減らした側や、CO2を吸収した側がクレジットを売ってお金を得られる点が、炭素税や排出量取引とは少し違うところです。代表的なものは次の2つです。
- Jクレジット
省エネ設備や再生可能エネルギー設備の導入、森林の管理などによって、温室効果ガスの排出を減らせた分や吸収できた分を、国が認証してクレジットにする制度 - JCM(二国間クレジット制度)
途上国と協力して減らした排出量をクレジットにして、削減の成果を二国間で分け合う制度
3-4 インターナルカーボンプライシング
インターナルカーボンプライシングは、企業が自社の中だけで使う「CO2などの排出のコスト」を、独自に決めておく仕組みです。たとえば「CO2を1トン出すと、社内では○円のコストがかかるものとして考える」と決めておき、設備を選ぶときなどの判断に使います(※1)。
具体的に考えてみましょう。設備Aは購入費用が安いものの、CO2をたくさん出します。設備Bは購入費用が高めですが、CO2の排出は少なくて済みます。購入費用だけを見ればAが有利です。ところが、CO2排出のコストも足して比べると、Aは「安く見えて、実は排出のぶんコストがかさむ」とわかり、Bのほうがトータルで得になることがあります。
このように、国や自治体の制度がなくても、企業は自分の判断でCO2などの排出を減らす方向に投資を進められます。
ここまでが基本の4種類です。では、これらは世界と日本で、実際にどう使われているのでしょうか。次の章から見ていきましょう。
※1出典:環境省「カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像」
※2出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第2回)政策パッケージ「Fit for 55」におけるカーボン・プライシングと再生可能エネルギー関連政策」
※3出典:経済産業省 北海道経済産業局「J-クレジット制度の概要」
第4章 世界の現状——先行するEU・北欧と国境調整措置(CBAM)
4-1 世界に広がるカーボンプライシング
カーボンプライシングは、いまや世界の多くの国で使われている政策です。世界銀行が2026年5月に公表した報告書によると、炭素税や排出量取引などの制度は、世界で87あり、1年前より7つ増えました。これらの制度がカバーしているのは、世界の温室効果ガス排出量の29%あまり、およそ3割です(※1)。
新興国にも広がっていて、経済規模の大きい中所得国はすべて、制度をすでに導入したか、導入を計画しています。とくにこの1年は、インドとベトナムで大きな動きがありました。世界の平均価格は、CO2換算で1トンあたり約21ドルで、10年前と比べて約2倍になっています(※1)。
※1出典:世界銀行「Direct Carbon Pricing Covers Nearly One Third of Global Emissions」(プレスリリース、2026年5月19日)
4-2 先行するEUと北欧
カーボンプライシングを先に進めてきたのが、EUと北欧です。第3章で見たとおり、炭素税は北欧が、排出量取引制度(EU-ETS)はEUが、世界の中でも早くから導入してきました(※2)。
そのEUが2026年から新たに始めたのが、次の節で紹介する「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」です。
世界で脱炭素が求められる背景については以下の記事で詳しく解説しています。
※2出典:環境省「カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像」
4-3 国境で調整する仕組み——CBAM
CO₂に価格をつける国が増えるほど、気になる問題が出てきます。価格をつけていない国でつくった製品のほうが安く売れてしまい、価格をつけた国の企業が不利になるのです。負担を避けるために、工場そのものを価格のない国へ移す企業が出てくるかもしれません。そうなると、国内のCO₂は減っても、世界全体では減らないことになります。これを「カーボンリーケージ(炭素漏出)」といいます。
この問題への対策として、EUが導入したのが「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」です。EU域内でつくられる製品には、EUの排出量取引制度(EU-ETS)に基づく炭素価格がかかっています。CBAMは、これに見合った価格を、域外から輸入される対象製品にも求める仕組みです(※3)。輸入品にも同じ条件を求めることで、EU域内の企業との公平な競争条件を保ち、リーケージを防ぐことが目的とされています(※4)。
2023年10月から排出量の報告を求める移行期間が始まり、2026年1月から本格制度に移行しました。今後、対象製品の輸入に伴って、製造時に排出されたCO₂に応じたCBAM証書の購入・提出が求められます。 対象は、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力の6分野です。日本からEUへの輸出では、鉄鋼とアルミニウム関連の製品が中心になっています。
世界の動きを見てきたところで、次は日本の現状に目を向けましょう。
※3出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の簡素化規則の解説(2026年2月)」
※4出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本企業を取り巻くCBAM対応の新局面」(2026年9月18日)
第5章 日本の現状——地球温暖化対策税からGX-ETSへ
日本のカーボンプライシングは、いま大きな転換点を迎えています。これまで中心となっていたのは、比較的負担の小さい「地球温暖化対策税」でした。そこに、2026年度から排出量取引制度が本格的に加わり、今後も新たな仕組みが段階的に導入される予定です。
政府は、こうしたカーボンプライシングと、脱炭素に向けた先行投資への支援を組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」を進めています。先行投資への支援は、10年間で20兆円規模とされています(※1、※2)。
日本では、現在から2033年度にかけて、次のような仕組みが段階的に導入される予定です。
| 制度 | 開始時期 | 対象 | 仕組み |
|---|---|---|---|
| 地球温暖化対策税 | 2012年10月 | 石油・天然ガス・石炭などの化石燃料 | CO₂1トンあたり289円分の税を上乗せ |
| 排出量取引制度(GX-ETS) | 2026年度 | CO₂の直接排出量が前年度までの3カ年度平均で10万トン以上の事業者 | 排出枠の保有が義務。過不足は取引できる |
| 化石燃料賦課金 | 2028年度 | 化石燃料の輸入・採取事業者 | 化石燃料に由来するCO₂の量に応じて負担 |
| 有償オークション | 2033年度 | 排出量の多い発電事業者 | 排出枠の一部を入札で購入 |
5-1 現行制度——地球温暖化対策税
日本ではすでに、炭素税にあたる「地球温暖化対策のための税(温対税)」が導入されています。2012年10月に始まり、すべての化石燃料に対して、CO₂排出量1トンあたり289円となるよう、石油石炭税に上乗せして課税されています。
家計への影響については、環境省が導入時に行った試算で、平均的な世帯で年間1,200円程度とされています(※3、注1)。
ただし、289円という水準は、第4章で紹介した世界の平均価格(1トンあたり約21ドル)と比べると、かなり低い水準です(注2)。そこで日本では、より本格的なカーボンプライシングとして、排出量取引制度が動き始めました。
5-2 制度の本格化——GX-ETS(排出量取引)の開始
p>GX-ETSは、3章で紹介した排出量取引制度(ETS)を、日本の制度として導入したものです。 2023年度から脱炭素に取り組む企業が参加する「GXリーグ」で、参加企業による自主的な排出量取引が始まり、 2026年度からは参加が義務づけられる形で本格的にスタートしました(※1、2)。対象は、CO₂の直接排出量が前年度までの3カ年度平均で10万トン以上の事業者です。発電所や大規模な工場を持つ企業などが中心で、個人や小規模な事業者は対象になりません。
対象事業者には、国から割り当てられた排出枠を、毎年度の排出実績量と同じだけ保有することが求められます。排出枠が不足する場合は他の事業者から購入し、余った場合は売却できます。また、排出量は登録された第三者機関による確認を受けるほか、脱炭素に向けた「移行計画」を毎年度提出する必要があります(※1)。
排出枠の価格は市場で決まりますが、急激な価格の上昇や下落を抑えるため、上限と下限が設けられています。報道によると、2026年度は1トンあたり4,300円が上限、1,700円が下限とされ、今後は毎年引き上げられる予定です。実際の排出枠の取引は、2027年秋ごろに始まる予定です(※参考1)。
なお、EUのCBAMには、EU域外で支払った炭素価格を、一定の条件のもとでCBAMの負担額から差し引ける仕組みがあります。 日本のGX-ETSがその対象として認められるかどうかは注目されていますが、現時点ではEUによる評価は明確になっていません。
一方、EUの制度を参考に導入された英国のCBAMでは、2026年8月にGX-ETSが適格な炭素価格制度として認定されました(※5)。
5-3 これから始まる——化石燃料賦課金
2028年度からは、石油・石炭・天然ガスなどを輸入・採取する事業者を対象に、「化石燃料賦課金」が始まる予定です。これは、化石燃料に由来するCO₂の量に応じて、事業者に賦課金の負担を求める仕組みです(※4)。
GX-ETSが排出量の多い事業者を対象とするのに対し、化石燃料賦課金は、より広く脱炭素への取り組みを促すための仕組みとして導入されます(※2)。
特徴のひとつは、負担を低い水準から始め、段階的に引き上げていく設計です。代替技術が十分に整っていない段階で負担を大きくすると、カーボンリーケージなどの悪影響が生じるおそれがあるためです。
なお、化石燃料賦課金による収入は、GX経済移行債の償還に充てられます。
5-4 2033年度から——発電事業者への有償オークション
2033年度からは、排出量の多い発電事業者を対象に、排出枠の一部を有償で割り当てる「有償オークション」が始まる予定です。有償で割り当てる排出枠の量や単価は、入札によって決まります(※4)。発電事業者を対象とするのは、再生可能エネルギーなどの代替手段があるためです (※2)。
有償オークションによる収入も、化石燃料賦課金と同じく、GX経済移行債の償還に充てられる予定です。
※1出典:経済産業省「排出量取引制度」
※2出典:経済産業省・内閣官房GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」(規制改革推進会議 資料3)
※3出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
※4出典:環境省掲載資料「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」(資料1)
※5出典:GX推進機構「排出量取引制度・化石燃料賦課金」
※6出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本企業を取り巻くCBAM対応の新局面」(2026年9月18日)
※参考1:日本経済新聞「排出量取引の価格に上下限、1トン4300〜1700円 売買念頭に投資促進」(2025年12月19日)
注1:税負担がすべて消費者に転嫁されると仮定した単純な計算で、実際の価格転嫁の状況によって変わります。
注2:為替レートで前後しますが、円に換算しても世界平均の1割前後にとどまります。
第6章 私たちの暮らしへの影響——個人・企業はどう変わる?
カーボンプライシングが導入されると、私たちの暮らしや企業活動にはどのような影響があるのでしょうか。
現在の制度では、個人がCO₂の排出量に応じた料金を直接支払う仕組みにはなっていません。一方で、企業が負担するコストが、エネルギーや商品の価格に反映される可能性はあります。
ここでは、個人と企業それぞれへの影響を見ていきましょう。
6-1 個人への影響
現在の制度では、個人が「CO₂の排出量に応じた料金」を直接支払う場面はありません。ただし、地球温暖化対策のための税(温対税)は、ガソリンや電気・ガスなどの料金に含まれているため、私たちも間接的に負担しています(※1)。
一方、GX-ETSや2028年度から始まる予定の化石燃料賦課金は、事業者を対象とした制度です(※2)。そのため、個人に直接請求されるものではありません。
ただし、事業者が負担するコストが、商品やエネルギーの価格に反映される可能性はあります。どの程度価格に反映されるかは、制度の詳細や市場の状況によって変わります。政府は、こうした制度を導入する一方で、エネルギーにかかる負担の総額を中長期的に減らしていくことを基本としています。
では、私たち個人には何ができるのでしょうか。身近なところでは、エネルギーの使用量を減らすことが挙げられます。環境省は、省エネ家電やLED照明への買い替え、住宅の断熱、太陽光発電の設置などを紹介しています。
6-2 企業への影響
GX-ETSの対象となる企業には、さまざまな対応が求められます。具体的には、CO₂排出量の算定・報告、第三者機関による確認、排出枠の保有、脱炭素に向けた「移行計画」の提出などです(※3)。
排出量を減らすことができれば、余った排出枠を売却できます。一方、排出量が排出枠を上回れば、不足分を購入する必要があります。このため、CO₂の削減は企業にとって、コストや収益に直接関わるものになります。
また、GX-ETSの対象ではない企業も、カーボンプライシングと無関係とはいえません。たとえば、EUへ製品を輸出している企業では、CBAMへの対応に向けて、取引先から製品の製造時に排出したCO₂のデータ提供を求められることがあります(※4)。
さらに、3章で紹介したインターナルカーボンプライシングのように、自社で「CO₂のコスト」を決めて投資判断に使う企業もあります。
自社のCO₂排出量を把握することは、こうした取り組みの第一歩となるのです。
※1出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
※2出典:経済産業省・内閣官房GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」(規制改革推進会議 資料3)
※3出典:経済産業省「排出量取引制度」
※4出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本企業を取り巻くCBAM対応の新局面」(2026年9月18日)
第7章 メリットと課題——カーボンリーケージ・公平性・価格水準
カーボンプライシングには、企業がそれぞれの状況に応じて、CO₂を減らす方法を選べるというメリットがあります。
たとえば、自社で設備を改善して排出量を減らす方法もあれば、他社から排出枠を購入する方法もあります。企業は、こうした選択肢のなかから、自社にとってコストの低い方法を選ぶことができます。環境省の審議会資料でも、企業の創意工夫やイノベーションを促す効果が期待されています(※1)。
一方で、カーボンプライシングにはいくつかの課題もあります。
カーボンリーケージ
代替技術や国際競争力への影響を十分に考慮せずに制度を導入すると、生産拠点が海外へ移転するなどの問題が起こるおそれがあります(※2)。日本が「低い負担から始める」設計をとっているのは、このような影響を抑えるためです。また、EUのCBAMも、国境を越えたカーボンリーケージへの対策のひとつとされています(※3)。
公平性
エネルギー価格が上昇すると、所得の低い世帯ほど家計に占める負担の割合が大きくなる「逆進性」が問題になることがあります。環境省の審議会資料でも、こうした公平性への配慮が課題として挙げられています(※1)。
価格水準
カーボンプライシングの価格が高すぎると、企業が海外へ生産拠点を移すおそれがあります。一方で、価格が低すぎると、CO₂排出削減へのインセンティブが弱くなるおそれがあります(※参考1)。
GX-ETSに価格の上限と下限が設けられているのは、こうした問題を抑えるためです。
では、環境問題は「価格」をつけるだけで解決できるのでしょうか。
カーボンプライシングは、企業や人々の行動を変える強力なきっかけになります。しかし、それだけですべての環境問題を解決できるわけではありません。たとえば、排出量を減らすための代替技術がなければ、企業が費用を負担しても、排出そのものを減らすことは難しいからです。
そのため日本政府は、脱炭素に向けた先行投資への支援と、カーボンプライシングを含む規制・制度を「両輪」として進める考え方をとっています(※4)。
※1出典:環境省掲載資料「カーボンプライシングについて(排出量取引制度)」(資料1)
※2出典:経済産業省・内閣官房GX実行推進室「成長志向型カーボンプライシング構想について」(規制改革推進会議 資料3)
※3出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本企業を取り巻くCBAM対応の新局面」(2026年9月18日)
※4出典:環境省掲載資料「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」(資料1)
※参考1:日本経済新聞「排出量取引の価格に上下限、1トン4300〜1700円 売買念頭に投資促進」(2025年12月19日)
注:収入に占める負担の割合が、所得の低い人ほど大きくなる性質のこと。
第8章 よくある質問(FAQ)
Q1. カーボンプライシングとは、ひとことで言うと何ですか?
A. 炭素(CO₂)に価格をつけて、排出する側の行動を変えてもらう政策手法です(※1)。
Q2. 炭素税と排出量取引は、どう違うのですか?
A. 炭素税は政府が価格を先に決めるのに対し、排出量取引は政府が排出量の上限を先に決め、価格は排出枠の売買によって決まります(※2)。
Q3. 日本に炭素税はありますか?
A. 「地球温暖化対策のための税」が2012年10月から導入されています。化石燃料に対して、CO₂排出量1トンあたり289円分が上乗せされています(※3)。
Q4. GX-ETS(排出量取引制度)は、個人にも関係しますか?
A. GX-ETSの対象は、CO₂の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者です。個人が制度に参加したり、GX-ETSの費用を直接支払ったりする仕組みではありません(※4)。
Q5. 化石燃料賦課金はいつ始まりますか?
A. 2028年度から、化石燃料の輸入・採取事業者を対象に始まる予定です。家庭に直接請求されるものではありません(※5)。
Q6. CBAMは日本企業にも影響しますか?
A. はい。EUでは2026年1月から本格適用が始まっており、日本からEUへの輸出では、鉄鋼・アルミニウム関連の製品が対象の中心となっています(※6)。
※1出典:環境省「カーボンプライシング」
※2出典:環境省掲載資料「カーボンプライシングについて(排出量取引制度)」(資料1)
※3出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
※4出典:経済産業省「排出量取引制度」
※5出典:環境省掲載資料「我が国におけるカーボンプライシングの導入に向けた検討状況」(資料1)
※6出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本企業を取り巻くCBAM対応の新局面」(2026年9月18日)
第9章 まとめ
カーボンプライシングは、CO₂を排出した分だけ負担が生じるようにして、企業や私たちの行動を変えていく仕組みです。
日本では、すでに地球温暖化対策のための税が導入されています。さらに2026年度からGX-ETSが始まり、2028年度には化石燃料賦課金、2033年度には発電事業者を対象とした有償オークションが始まる予定です。
一方で、価格をつけるだけで環境問題を解決できるわけではありません。カーボンリーケージや公平性、適切な価格水準などの課題があり、脱炭素に向けた技術開発や先行投資への支援などと組み合わせて進めることが重要です。
「排出量取引」や「化石燃料賦課金」といった言葉をニュースで見かけたときは、日本のカーボンプライシングがどのような仕組みで、何を目指しているのかを思い出してみてください。






